4.恐竜一家

 しばらく先の三畳駅では、反対方面の電車が停車していた。反対行きの電車を降りた4人の恐竜一家が、こちらへ側の列車に乗りこんできた。

「いやあ、まいった。隕石のせいで、寒くて死んでしまう」

「気温が下がったのはともかくとして、食料がなくて、食べるものが困るわ」

 誰に聞かせようというわけでもない文句を口にしながら、ケンジの座るボックスシートの裏側の席にどかりと座り込んだ。

 恐竜の家族連れは、弁当を開けて食事をとり始めた。中身はシダ植物だ。子どもたちが口を開いた。

「えー、また、シダ植物?」

「文句は言わない。最近は被子植物ばっかりで、シダ植物は貴重なんだぞ」

「たまには哺乳類の肉が食べたい」

 それを聞いて、ケンジは少し身をかがめた。

 恐竜一家が食事を終えるころ、窓の外の空の向こうには、大きな流れ星が見えた。おそらく、あの小惑星がこれから地上に激突するのだろう。

 父親恐竜が口を開いた。

「お前たち二人は、地熱で卵から孵った恐竜なんだぞ。しっかりと食べて、体を大きくしなくちゃいけないぞ。それに、最近の恐竜は羽毛も生えてし、寒冷化もすぐに収まる。大丈夫だ」

 ケンジは恐る恐る声をかけた。

「寒冷化はすぐには収まりませんよ」

「それはどういうことですか?」

 父親恐竜はケンジに応じた。ケンジは、巨大隕石の衝突から、地球規模の寒冷化発生し、恐竜が大絶滅したことについて説明した。

「ふーん。なるほど。我々は、骨だけが残って、『化石』になって、それを手掛かりに、『人類』が、我々の滅亡の原因まで調査してくれたんですか。寒冷化がそんなに長期間続くとは思いませんでした。それなら、ちょっと列車で巻き戻したところで、意味がないってことですね・・・」

「恐竜も全部が絶滅したわけではありません。中には鳥に進化して生き残った種族もいたそうです。鳥になるっていうのはどうですか」

「トリ?トリって何ですか?トリケラトプスなら分かりますけど」

「両手を大きな団扇みたいにして、空気をかくと、空中に浮ぶことができるんです。それが鳥類です」

「そんなことできるんですか?ぜひ、やってみたいですね。参考にしますよ」

 ほどなくして、列車のアナウンスが流れた。

「次は、白亜駅、白亜駅。ご降車の方は巨大隕石にご注意ください」

 恐竜一家は、荷物をまとめて降車の準備を始めた。父親恐竜はケンジに目配せして、そっと、お辞儀をしていた。一方で母親恐竜は子供恐竜の世話をしていた。

「さ、降りるよ。こら、列車の中で羽ばたかない!」

「ねー。トリってなーにー?」

「列車を下りたら、やってみるのよ」

 白亜駅で下車した恐竜一家は、鳥となって、大空へと羽ばたいていった。

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