3.謎の付添人との果てしない旅路

 しばらくして気が付くとケンジの枕元に、一人の人物が立っていた。ぼんやりしていて、輪郭がはっきりしない。顔もよく見えない。

「とても、辛そうだね。何だかもうしわけない」

 謎の人物がそのような言葉をかけてくると、さっきまでケンジの体を支配していた倦怠感や高熱はいつの間にか消え失せていた。ケンジは体を起こし、ベッドの横に立ち上がった。

「ちょうど、折り返しの電車がきています。一緒に来てくれませんか?ちょっと乗り過ごしたみたいですね」

 折り返しの電車?何のことなのか?見渡すと、病院の個室の壁はなく、しばらく先に路面電車のような外観の乗り物が待機していた。発車のベルが鳴る。発車のベルに促され、謎の人物とともに電車に乗り込んだ。

 謎の付添人はベータと呼ばれていた。ずっと前からケンジといっしょにいて、ケンジのことをよく知っていると言っていた。

 電車は、広大な水面の上のレールを走る。

 水面を反射する朝日がサーチライトのようにケンジと付添人を照らしだした。外には、大気がほとんどなく、空は宇宙の漆黒の色が直接のぞくことができた。何倍も大きな巨大な月が浮かび、巨大な月の引力で海をかき混ぜていた。

「ずいぶんと遠いところに来てしまいましたが、この電車で『居たところ』に帰ることができます」

「あなたは、誰ですか?私のいつごろから知っているのですか?」

「かなり前からです。ちょうど、細胞核ができた頃あたりからです」

 乗客はほかにもいるが、座席指定なので他の乗客の顔が見えない。この電車に停車駅はあるのだろうか?

「次の駅はしばらく先ですよ」

 しばらくすると、水面は凍り、氷の世界が現れた。氷の世界はしばらく続き、次の停車駅のアナウンスが流れた。

「次はカンブリア駅。カンブリア駅。無脊椎線は乗り換えです」

 電車が駅に停車した。空は青く、気温は高く、常夏のように温暖であった。電車の乗客が続々とホームに降りていった。乗務員が列車の出口に立って、降車客を見送っていた。

「カンブリア爆発を記念し、皆様には、サングラスをお渡ししています。太陽光はまぶしいですから、降車の際には必ずご着用ください」

 花が咲き乱れ、虫が飛び、野原を縦横無尽に獣が走り回った。さまざま生物が多様に進化する光景にケンジは心をなごませていた。

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