第24話 イシュタの子供
「あつい……」
体が燃えるように熱い。ここは何処だろう。
「おはようございます。ケイさん」
「イシュタ……」
そうだった。何かの薬を打たれて……。
「そういえば、竜王リノンの封印が解けたという通達が今さっき王都から届きましたけど、まさか今ここに居るリノンさんとは無関係ですよね」
「……」
「まぁ、そんな訳ありませんよね」
ここは牢屋のような場所だ。石造りの壁に、鉄格子で固く閉ざされている。
ここは地下なのだろうか。
「リノンは何処だ」
「話を始めたのは私の方ですけれど、いざ貴方から他の方の名前が出ると不愉快ですね」
イシュタは鉄格子の扉を開けて、中に足を踏み入れた。
俺は走って出ようとしたが、足枷がついていて、転んで地面に強く顔を打ち付けてしまった。
「ぐっ」
足枷が無くとも考えなしに飛び出すのは悪手だった事だろう。イシュタをすり抜けたとして、ここの出入り口が分からないし、衛兵だって居る。
「ああ、危ないですよ。お怪我はされていませんか?」
イシュタがこちらを心配して触れてこようとしたが、俺はその手を払った。
「うふふ。そんなに強がっちゃって、震えていますよ」
確かに俺は怯えて震えている。だが、アークブラッドベアのときよりは恐怖は低い。
言葉の通じる相手だからというのもあるだろうが、今の俺にはリノンという仲間が居る。
彼を助ける為にも、怯えてじっと蹲っている場合では無いのだ。
「貴方には私の命令を聞かないと首が刎ねられてしまう魔導具を着けました。なので足枷がなかろうと、逃げる事は出来ないでしょう」
俺が自らの首を触って確認すると、確かに首輪のような物が着けられていた。
しかも首だけじゃない。両腕両足首にも着けられている。
俺がその事に気付くと、イシュタはニヤリと笑った。
「気づきましたか。それも首の物と似た機能です。貴方が私に殴りかかったら、その腕の魔導具が腕を切り落とし、走って逃げようとすれば足が無くなります」
なんて魔導具だ。
「大人しく私についてきて下さい。見せたい物があるんです。
あぁ、安心してくださいね。リノンさんという竜族の方は無事ですし、殺す予定もありませんから」
イシュタは俺の足枷を解きながら楽しく雑談をするように説明をしていた。
拒絶してばかりでは一生ここから出られないだろう。
俺は大人しくイシュタに付いていった。
……途中からイシュタの護衛も俺を見張るように付いてきて、イシュタが外せと言うまで見張られた。
この女は意外にも人望が厚い。
「この方々と、こちらを見て欲しいのです」
イシュタは鉄格子の中の男達と、周りよりも衛生に気をつけていそうな部屋を案内した。
先程よりも、一段と魔力が濃い。俺は体が熱くて座り込みたかったが、必死に堪えた。
鉄格子の中の男達は、全員若くて良い意味で肉付きが良い。横たわっている者も居れば、こちらを虚ろな目で見つめている者も居る。
「まずはこちらから」
イシュタは綺麗な部屋から案内する事にしたらしい。
部屋の中は大型の脊椎動物の物と思われる骨がいくつかの木箱に押し込んであり、天井には肉を吊るすフックが付いていた。
天井のフックには大きな肉が一つ吊り下げられている。
大きさや形的には羊や子牛の肉だろうか。
「肉? 何でこんな物を……」
「こちらはこの子のお父さんになる人ですよ。赤ちゃんの血肉になるんです。まぁ、お父さんであり赤ちゃんみたいなものですね」
イシュタは自分の腹を撫でて、照れくさそうに話した。
お父さんになる“ひと”……。
「はっ?! こ、これってまさか……」
「はい。人間ですよ」
ありえない。本当にこれが人肉なのだろうか。しかもお父さんになる人って、まるで妊婦が人間を食べたら、妊婦の腹の子が食べた人間の子供になるみたいな説明だ。
「な、まさか食べるのか……?」
「決まっているじゃないですか。今の所この子はあの夫の子供ですけれど、新しい夫を食べればもうこの子は新しい夫の子です」
彼女が何を言っているか理解出来ない。気分が悪い。
「かっ、ぐえっ」
俺は嘔吐いてしまった。本当に気分が悪い。
「あら、気分が悪くなってしまいましたか? ここは地下で空気が悪いですし、外の空気が入る場所に行きましょうか」
「ご、この人達はどうなるんだ」
「もちろん、この子の栄養素になります。でも貴方が居てくれますし、食べ切れなさそうなら逃してあげますよ」
イシュタは俺の顔を覗き込んで来て、じゃらじゃらに指輪の付いた指で俺の髪を掬い上げて感触を楽しむように触ってきた。
「体調は大丈夫ですか」
「この人達は逃してくれないか」
ぐちゃぐちゃの脳内から唯一絞り出した言葉だった。
「考えておきます」
イシュタは優しく微笑むと、ドレスをひらひら揺らして俺の腕を引いた。
「あと、貴方が持っていた魔導具は私がお預かりしてます。どんな効果の魔導具か分からないので、今は魔道士さんに調べてもらってます」
「……」
今の俺の口からはもう言葉が出てきそうに無い。
「清潔な場所に案内しますね。お水も出します」
イシュタはまた人形遊びをしているかの様に、一方的に話を投げつけてくる。
「実はリノンさんを先に綺麗な部屋にご案内していたので、貴方のお部屋があんなに汚い場所になってしまったんです。弱っているらしいので慎重にしていますよ」
ーーー
「ん……ケイ?」
リノンが目覚めると、そこは見知った場所では無かった。
貴族が使うような、ふかふかのベッドで横になっている。
(はっ、そうか。おれはイシュタとかいう女に……)
「ケイ! ケイは何処だ!!」
リノンはすぐさまベッドから起き上がり、部屋の扉をガチャガチャと開けようとした。
残念ながら、部屋の扉には鍵が掛かっている。
「はぁ……」
リノンは一旦座ってどうすべきか考えた。
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