第12話 リノンの苦悩①
勇者が置いていった永遠に止まることの無い時計が、残酷に封印された時の長さを示している。
私は四百年前に勇者に封印された。
ヴィスタという大事なパートナーも死に、国も魔王に奪われた。
私は全てに絶望して、このまま自分を封印している結界に魔力を奪われ死のうと思った。
もう何もかも終わったのだ。国の仲間には無責任な事この上ないが、私はもう立ち直れそうにない。四百年も経ってしまったのだ。
短命な者はあの戦争を生き延びたとしても、既に寿命がきているだろう。
私の寿命のうちでは人間のたった数年程度だが、世界にとっては四世紀だ。常識が全て変わり、考え方も根本から違っているだろう。
私は目を瞑って、閉じ込められた者の魔力を吸い続ける結界にゆっくりと身を任せた。
そんなときだった。もう百年以上閉じていた目に、ヴィスタの魔力が薄っすらと映った。
結界の外を見たいと、二百年ほど目を良くし続けていたのが功を奏したか。
見間違えなのだろうか。私は約百年振りに目を開け、今出せる力の半分を使って魔力の感知機能を上げた。
「ヴィスタ……」
やはりあれはヴィスタで間違いない。転生をしていたのだろうか。ここから北、大陸の反対の海だ。
小さなたった一つの輝きが、私の目に見えた。
ヴィスタに会いたい。
この封印から出たい……!
「ゔああああぁぁぁぁ!!」
気づくと私は、自らの魔力を振り絞っていた。
今出せる魔力を結界と私を縛っている鎖にぶつけると、思ったよりも簡単に壊す事が出来た。
鎖は錯乱して暴れたとき私の魔力でボロボロになっていたとして、結界には大した影響があるほど何かをした記憶が無い。
そうだ。
三百年ほど前に、仲間達が封印を解こうと何かをしていた。
結界の外側からは中を覗く事が出来ない上、魔導具の鎖で身動きが出来ないので魔力をぶつけるくらいしかできなかったが、あれが結界の経年劣化を早めたようだ。
まだ諦めるときじゃなかった。
「で、出られた……」
外は夕暮れだった。
出られたからと悠長にしている場合ではない。あれだけ魔力を放出したという事は、彼に何かあったのだろう。
私は結界の近くに置いてあった魔力回復の薬を一気に飲み干した。劣化していてまずい。
だが、こんな場所に置かれているだけあってかなり魔力を回復出来た。
私は残った魔力を振り絞り、竜の形態に変化した。
なるべく魔力を消費しないよう、胴体と前脚は小さく細く、羽は大きく。
ヴィスタ、待っていてくれ。
……
………数時間かけて、私は大陸の反対を目指した。
攻撃されないよう、陸ではなく海の上を飛んだ。
私は誰も居なさそうな大森林に降りる事に決めた。丁度良い開けた場所がある。
「く……」
私は落ちる様に地面に降りた。
竜の形態で居るにはもう限界だった。
あいつらは誰だろうか。
私が着地した場所にはボロい服の男達がいた。
「ど、ドラゴンだ!」
「いや、竜族じゃねぇか? 額に角が生えてる」
人間には恨みがあるが、こいつからは何もされてないし、怖がらせてしまったのは申し訳ない。
男達が使っている言語は、北側の言語が激しく訛ったような物だ。北側の言語なら簡単だし、すぐに使えるだろう。
私は、付けていた亜空間収納の機能がついた腕輪から服を出しつつ人型になり、男達と対話を試みた。
人型になればかなり魔力の消費が少ない。これなら軽く戦闘をするくらいなら出来るだろう。
「はじめまして。私は竜族だ」
普通に会話が出来るかと思ったが、男達は剣を抜いて掛かってきた。
「竜族の奴隷なら高く売れるぜ!」
「おい、お前は鎖持ってこい」
どうやら男達はゴロツキのような事をして生計を立てているようだ。
今の私は弱っているとはいえ、多少武を習ったような人間には負けない。
私は簡単に勝った。
「すまなかった! 見逃してくれぇ!!」
「頼む! せめてここで殺さず衛兵に引き渡してくれ!!」
「ふむ。ならば言葉を教えてくれないか?」
私は男達を蹴ったり魔法で焼いたりして、言葉を喋らせた。
奴らが持っていた荷物も漁り、文章が書いてある物を読ませたりもして、この時代の北側言語はほとんど完璧だ。
「わ、わた……わ……」
だが、『私』と似た意味を持つ一人称が上手く発音出来ないので、仕方なくかろうじて発音出来る『俺』という一人称を採用した。
竜族の人型は人間とほぼ同じ見た目にできるが、人型の状態でもブレスという、口から魔力組織で変換した魔力を放つ攻撃をするのだ。
それによって角も尻尾も無くした状態でも、口だけはブレスを放つ前提の形をしている。
そのせいで人間には発音出来る言葉も、竜族は上手く発音出来ない場合がある。
「さて、そろそろ開放してやろう」
開放と言っても、先程男達が自ら持って来た鎖を解くわけではない。衛兵を呼ぶのだ。
私……おれは荷物に含まれていた発光と大きな音を出す機能を持つ魔導具を地面に叩き付けた。
空を飛んでいるときに見えた街道の建物に衛兵が居たので、この距離なら光も見えるし、音もギリギリ聞こえるだろう。
おれはその場を去って、ヴィスタの生まれ変わりに会いに行く事にした。
……
「居た……ヴィスタだ!」
寒さで魔力をほとんど使い切ったので、森は徒歩で移動した。
ヴィスタの魔力を辿ったおかげで、魔物は魔石に強い魔力が触れるのを嫌う習性があるため全く遭遇しなかった。
時間はもうとっくに朝になってしまっている。
魔力を引き付ける体質は生まれ変わっても同じようだった。ならば前と同じように寿命は無いのだろうか。
いいや、ヴィスタのときは天使族だったが、今の彼は身体組織的には人間だ。
ある程度寿命が長くなっただけの可能性もある。
ヴィスタの生まれ変わりは何故か魔力を肉体にため込み続けて、発散させようとしない。
結界の使い方を知らないのか? 違う、だったらとっくに体が爆発四散している筈だ。
おれがしばらく様子を確認していると、生まれ変わりはこちらを数分見つめてくる。
おれは言葉を発するより生まれ変わりの体を見て、異常が無いか確認するのを優先した。
「おーい。何見てるんだよ」
おれが彼の体を確認し終わると、丁度話しかけてきた。
彼の体を見て分かった事がある。
この土地だと、彼は一週間程で魔力の過剰吸収によって爆発して死んでしまう。
向こうからしたらおれは他人かもしれないが、そんな彼を黙って見ているのは無理だった。
何とかしてやりたい。
急いで近くによって、彼の体内をより近くで見ながら対話をした。魔力を吸い取る場合、どれくらい吸い取るかしっかり測ろう。
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