第36話 不正が準備運動していた件。
その日の夕方。校門前に取材の記者が溢れかえった。
それは何処から情報が漏れたのか知らないが、
『男子学生が暴行事件を行ったと伺ったのですが!』
『被害者女性との怨恨との話が噂されているとか?』
『目撃した学生が多かったとの事ですが感想を一言』
雨の中にも関わらず野次馬根性だけで取材するから御苦労様と言いたくなった。
(感想も何も無いだろうに。頭の中にウジが湧いてるのかね?)
そうとしか思えない程の配慮が出来ていない物言いだった。
マスコミという輩は全世界共通の野次馬でしかないよな。
お陰で本日の放課後の予定が全てパーだ。
俺と
「これって帰りの寄り道が出来ないよな?」
「出来ないね。誰よ? お漏らししたの?」
会長達も呆れ顔のまま教師達の杜撰さに苦言を漏らした。
「これは教師達が箝口令を敷いていなかった事が原因だね」
「ウチの高校で暴行事件が発生したとSNSに書き込んでいる生徒が複数居ますから、それを見て押し寄せたのでしょうね。連行こそされたものの、今はまだ警察発表前ですし」
「滅多にないスクープだけに押し合いへし合いですね。死ねばいいのに」
会長達はカーテンを閉め、自分達の席に戻る。
「職員室は絶賛対応に追われているでしょうね」
「生徒を安全に帰す段取り中だとは思いますが」
「というか配慮出来ない悪い大人の例ですよね。あれ?」
「一応、家の報道部門は発覚した時点で戻るよう伝えたけどね。三ヶ月減給されたい社員だけ残れと言ったら渋々戻ったらしいから」
「こういう時、会長が居てくれて助かりますよね」
「不本意だけどね。それでも無関係な報道は帰らないけど」
会長は遠い目をして騒がしい外に耳を傾けた。
俺と
「なんか裏門にも集まっているから帰るに帰れないって」
「それって部活組から連絡が来たのか?」
「うん。ホント余計な事をしてくれたよね。あれが故意から始まった行為だとしてもさ」
「だな。こうなるよう仕組んでいたとしたらやりきれないわ」
「そうなると
「していただろうな。
「チッ。死ねばいいのに」
そう、元々の標的は
先の件で不発に終わったから何がなんでも犯したかったのだろう。
「奴にとって世間の女性は全て自分の物と思っていそうだな」
「「死ねばいいのに!」」
彼女持ちの彼氏から奪う事だけに尽力しているしな。
あれも放課後に知ったが、結構被害者が居たらしい。
文系の男子から不評を受けていたのはそれだったと。
すると会話に耳を傾けていた会長達が問いかけた。
「ところで故意って?」
「何か分かったの?」
そういえば会長達は知らなかったっけ。
俺はタイピングしつつ会長達の質問に答えた。
「閉鎖偽装していた裏サイトから被害者と加害者の示し合わせが見つかりまして」
「「示し、合わせ?」」
「ええ。私に対する嫌がらせ計画ですね」
「
「私が一年間苦しむに至った原因が被害者の発言によるものでした」
「発言の動機は、被害者の彼氏が無遠慮な懇願をしたみたいですね」
「
「「は?」」
この発言の直後、会長達の額に青筋が見えた。
そう、これさえなければ被害者も願わずに済んだ。
「その結果がこの騒ぎですね。どちらに転んでも起きたみたいですが」
「被害者がクラス委員長か
「やりきれませんが、この報道はクズの仕組んだ本命を困らせる手口でしょうね」
そうとしか思えない。SNSで検索すると奴と交流のあった野郎共が実名で書き込んでいたからな。同類には同類の野郎共が寄ってくると。まさしく類友だと思ったぞ。
本命と聞いて会長達はきょとんとなった。
「「本命?」」
「ええ。生徒会への恨みを晴らす目的があったようです。被害者も副会長を嫌っていたみたいですし」
「嫌いって・・・そんなのただの逆恨みじゃないの!?」
「それを聞くと自分が何をやらかしたか理解していないようね」
「生徒会費の着服、女子へのセクハラ行為、各所での脅し等々」
「最近だと試験問題の窃盗もあるね」
「罪の意識すら皆無ですよね。奴は」
気に入らないから潰してやるくらいは考えていそうだ。
自分勝手な俺様ルールに基づいて動くクズだしな。
「それこそ理解していないから・・・仮に起きるとすれば報復ですよね」
「報復? あ、そうか。最悪は責任無能力で釈放か」
「「責任無能力ってなんですか?」」
「簡単に言うと心神喪失で無罪になるの。母さんが毎度愚痴る事案だけど」
「「は?」」
有り得ないって顔してるな。
「それでいいのか警察官」
「これは身内への愚痴よ」
すると会長が溜息交じりに呟いた。
「そうなると、とんでもない生徒を入学させたわね。転勤した当時の担当者」
ん? 転勤した当時の担当者?
それを聞いた俺は不意に不穏な気配を感じ取る。
質問したのは俺ではなく
「会長? それって誰の事ですか?」
「用務員の先生と対立した前の生徒指導よ。身内が入学してくるから転勤扱いになって離島に飛んだわ」
「「「はぁ?」」」
そんな教師が居たのかよ。そうなると一年前か?
「それで、その先生の名前はなんて?」
「
「そうですね。珍しい名字でしたけど」
「こ、
それを聞いた
俺は心配になり
「どうかしたか?」
「奴の両親が離婚する前の姓がそれだった気がする」
「は? もう一人の姉とも名字が違うぞ」
「父親は婿養子。今は再婚したから」
「あ!」
つまり再婚前の姓を持った女教師が居たと。
「身内だから、弟が入学してくるから?」
「うわっ。家族を巻き込んだ計画的犯行じゃん!」
「内申書も姉から姉に渡って、奴の合格は決まっていたとするなら、大事じゃねーか」
「それを聞くと、とんだ裏口入学ね。この場合は縁故による口利きだけど」
一番やってはダメな事をしてるじゃねーか。
それこそ婦女暴行の話が霞むほどの大問題だった。
(こうなったら反撃するしかないよな?)
こちらが知らないと思ったら大間違いだって事で。
俺は裏サイトに書かれている情報を再度抽出した。
今日は自分のパソコンを持ってきていたから幸いだ。
テザリングで接続し、抽出した文章を複数起こした。
流石に個人名のところは伏せ文字に置換しておいた。
俺を含む生徒会役員全員の情報も今回は省いておいた。
(婦女暴行の自作自演、脅しの元ネタと・・・お?)
その中に一年前の口利き情報等も載っていた。
「会長。少しいいですか?」
「ん? 何かあったの?」
「いえ。面白情報が裏サイトから見つかりました」
「面白? あ、こういう事を平然と行えるなんてね」
「中学の裏サイトでしたが文字色が背景色と同じでした」
「消せばいいのに残しているなんて。バカなの?」
「バカなんでしょうね」
犯罪自慢しないと落ち着かないタイプなのだろう。
「もしかしたら姉から注意されたのかも」
「それでも消さずに同系色で隠すとか?」
「これが首絞めになるとは考えてもいないでしょうね」
「そうね。今回は相手が悪かったわね」
「あとこれ。二年生全員を敵に回す事案ですよ」
「え? え? え? え? え? 酷いわね」
会長が何度も見てはきょとんとする情報。
「全て覚えられないとはいえ、これはないわ」
「な、何が書かれていたんですか? 会長?」
副会長に問われた会長は俺と目配せして同時に答えた。
「「入試問題と模範解答の不正入手」」
「「は?」」
「だ、だ、大問題じゃないですか!?」
それら全ては奴にとって取るに足らない行いなのだろうが、
「これが夢であってほしいわね」
「夢であってほしいですけど日付が入試の前々日ですね」
「「「おぅ」」」
裏口入学よりも厄介な情報を残すバカであった。
「それで中堅で入学なら。やっぱりバカだったと?」
「面接もあったから筆記だけが全てではないと思う」
「だから用務員の先生と対立したんじゃ? 模範解答と似ているから怪しいって言われて」
「「それだ!」」
「結果的に面接だけで合格させたと?」
「試験不問というのはやりきれませんね」
そんな愚痴も書かれていたな。姉が言った的な。
次いで開発者に再度通報して一括削除を敢行した。
情報源を問われても消えていましたと返せばいい。
そうしてリーク情報の準備が整うと、
「仮にリークするならどの情報がいいですかね?」
席に戻った会長に向き直って質問した。
「リークする? それってウチの報道部門を使うつもりなの?」
「ええ。すっぱ抜きは確定ですし」
「ふふっ。そうね、今の状態が暴行事件だから軌道修正させるとしたら裏口と不正入手ね」
「その分、学校も痛い目に遭いますけどね」
「今回は対象が校長と教育委員会に分散するからいいでしょ」
ゴムの木しか興味なさげな校長と無責任な教育委員会か。
こうして俺は厳選したタレコミ情報を
それと同時に会長経由で家令へと命じて報道部門に流れるよう仕組んでもらう。
「今送った情報だけど、先ほど止めた暴行事件の主犯に関係する情報なのよ。どうも身内が口利きと入試問題を不正で横流ししていたみたいでね。犯人が学校に通うきっかけになるから徹底調査して。ええ、最優先で」
しばらくすると速報が流れたようで報道陣が大慌てで校門前から撤退した。
「彼等が向かったのは役所ですかね」
「そういった事実は無いと反発するでしょうけど」
「実際に身内を飛ばしていますからどうでしょう」
なお、飛ばした理由は深夜に明らかになった。
風呂上がりにテレビを見ていたら流れたからな。
「入試問題の横流しを隠すための島流しとかアホか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。