第23話 杜撰過ぎて心配になったよ。

 先生はあき君からの報告を受け、校内放送で生徒会長を呼び出した。


「本当に存在していたの?」


 生徒会長の背後には不愉快そうな副会長も付いてきていてあき君をジッと睨んでいた。睨む理由が不可解過ぎるよね、これ?


「ですが、部数違いがありましてね」

「百部しか届いていないそうですよ」

「これの領収書はどうなっているの」


 広報誌をぺらぺらと捲る生徒会長は依頼主である副会長に問いかけた。


「・・・」


 だが、返事はなく無言の睨みをあき君にぶつけるだけだった。


「聞いているの?」

「会長。こんな奴の言い分を聞くのですか?」

「は? 貴女は何を言っているの? 私が聞いているのは」

「どうせ有ること無いこと告げ口したのでしょう? こいつが」


 私は副会長の本性を見た気がした。

 これが彼女の本性で言いがかりをつける異常者だと理解した。

 生徒会長はとっても大きな溜息を吐き、


「失望したわ。貴女はそういう人だったのね」


 瞼を開いたのちキツい視線を副会長に浴びせた。

 この瞬間、空気が凍結したかのような、気温が下がったような気がした。


「か、会長!?」

「貴女に呼ばれる筋合いはないわ」

「き、聞いて下さい。会長! 私は別に」

「言い訳は結構。それと一つ、言っておくわ」


 生徒会長は睨みを利かせながら椅子に座ったままのあき君を一瞥した。


(え? どういうこと?)


 私は生徒会長があき君を見た事に対して疑問を持った。

 あき君自身も何の事なのかって表情だ。きょとんともいうが。


「実はね。昼間に気になって叔母に連絡を入れてみたのよ」


 叔母? 会長にも叔母さんが居たの?

 いや、居たとしても不思議ではないかな、うん。


「そうしたら、私には良く出来た従弟が居るそうなの」


 え? 従弟? どういうこと?


「私よりも英会話が上手くて、外国人講師の覚えめでたい」

「「は?」」


 これには私とあき君の声が重なった。


「何より史上最年少で有名大学を卒業しているじゃない」

「「あっ」」


 あー。これはもしかすると、もしかする?


「か、会長? その話、初耳なんですが?」

「私も初耳だったわ。ウチの家って隠したがる性分なのでしょうね。聞かれない限り絶対に言わないから」

「あー。何となく分かります」


 気づいているのは私とあき君。生徒会長のみだ。

 先生達は首を傾げ、睨む副会長は何が言いたいって表情のままだ。


「貴女が貶している彼はね。優木ゆうき家の人間でもあるの。つまり、雇い主の家に唾を吐いた事と同じよね」


 あら? 二人の関係は雇用関係でもあったんだ。護衛かな?


「ま、待ってください! そ、それは、あり、有り得ないです!」

「どう、有り得ないのかしら?」

「だ、だって彼は・・・根っからの悪人ではないですか!」

「悪人って。じゃあ、逆に問うけど何を根拠にそれが言えるの?」

「こ、根拠なんて・・・ありません、けど・・・悪人であるのは確かです!」

「へぇ〜。根拠なしに人を疑うの? それなんてただの決めつけじゃない」


 これは生徒会長の言い分の方が正しいね。

 副会長は自分勝手に難癖を付けているだけだ。

 するとあき君が副会長の何かに気づき問いかけた。


「副会長は誰かに脅されていませんか?」

「っつ!」


 脅されている? 問われた瞬間に図星のような反応が返ってきたけど。


「どういうこと?」

「ちょっと追い詰められただけで瓦解するような人ではないでしょ? 副会長は」

「「あっ」」

「・・・」

「確かにそうね。ディベートが得意なのに」

「ええ。論破するくらいはやってのける人だと認識していたのですがね。いつもなら根拠となる情報を持ち出してでも言い切ります。ですが、今回は根拠が無いまま言い切った。違和感しかありませんよ」

「で、誰に脅されているのかしら?」

「・・・」


 分が悪いと思ったのか副会長は沈黙した。

 そのうえあき君にも視線を向けず俯いた。

 見透かされるって認識したのかも。


「なんか、似てるよね」

「は? 顔は似てないだろ?」

「人を見る目が似てるって事だよ」

「そうか?」

「そうかもね」


 あき君の場合、危険人物に近づかないだけなんだけどね。

 見た瞬間に距離を取ったりするから。何かを本能的に嗅ぎ取っているようだ。


「あり得るとすれば趣味方面か。何処かで何かしているのを示されたくない的な」

「ああ、私の趣味のような人には言えない何かって事ね」

「そうなりますね」


 そうなりますって、まさか知ってるのかな?

 私は疑いの目をあき君に向ける。


あき君はなんで知ってるの?」

「一年の時に直接暴露されたからな」

「暴露ではないでしょう。その人の人となりを知るには自分も教えるという精神で伝えたのだけど」

「それを暴露と言うのでは?」

「そうかしら?」

「なら、先生にそれを言えますか?」

「うっ。それを言われると言えないわね」

「でしょ? イメージが崩れますし」

「一体なんの趣味を持っているの?」

「先生。知らない方が身のためです」

「知らない方がって。恐ろしい趣味なのね」

「違いますって! 冗談はその辺にしておいて」


 一周回って生徒会長が親しみある人物に思えてきたよ。

 というかあき君のルーツには生徒会長の家が関係しているのね。

 ごく一般的なサラリーマンの家と思ったらウチより上でしたって、マジか。


「そうなると」


 あき君は職員室だというのにスマホを取り出す。


「先生、少し調べていいですか」

「し、調べるって?」

「膨大な量ですのでちょっと時間がかかりますけど」

「何を調べるつもりなの?」


 スマホのアプリを開いたと思えば素早い指の動きで文字を打ち始めた。


「あんちくしょう。バックアップから復旧しやがったな」

「「「復旧?」」」


 画面を覗き込めば昨日見た文字列が流れる様子が映し出されていた。


「ま、それで助かったとも取れるけど」

「何をしているの?」

「無駄に高スペックなのが自身が痛い目に遭う原因となるなんて皮肉ですが。出てきましたね」


 画面に出てきたのは副会長が・・・おぅ。これは表沙汰には出来ないね。


「これはイメージが崩れるよ」

「人の趣味はそれぞれだからな。これで脅したとしたら碌でなしだよな」

「どれどれ? あらあら。私の趣味と似たり寄ったりね」

「か、会長の趣味ですか?」

「ええ。優等生も楽ではないからね。ストレス解消でやっていても不思議ではないわ」


 生徒会長もストレスが溜まるのね。

 私の趣味はあき君を想い続ける事だけど。


(流石に先生には見せられないよね。これ?)


 そう思っていたのだけど、先生は立ち上がって覗き込んでいた。


「あら、やだわ・・・同志じゃないの」

「「「「同志?」」」」


 この発言。先生も同じ趣味をお持ちなのかな?


小鳥ことりさんが、男装レイヤーの遊人ゆうとさんだったなんて」

「ふぁ? な、なんで知って?」

「マキマキって言えば理解は容易いわよ」

「は? ま、まさか、そんな・・・え?」


 あ〜、言っちゃったぁ。この担任教師、侮れない。

 ちなみに、担任の名前はまき蒔子まきこだ。


「本名とコスネームがほぼ同じな件について」

小鳥ことりさんの趣味は酷いものではないわよ。犬束いぬづか先生の隠し趣味に比べたら」

『ちょ!? まき先生! それは言わない約束で・・・あ、すみません』


 担任の暴露で犬束いぬづか先生が慌てだした。これは哀れ過ぎるよね。


「ま、まぁ暴露されたも同然だけど・・・脅しネタはチャラになったかしら?」

「チャラになりましたね。これ以外にはありませんし」

「というか復旧して自分の首を絞めるってバカなのかな?」

「俺の力量を把握出来ないから、最初から出来ないものと決めつけているんじゃないか。午前中までの生徒指導の先生みたいにな」

「なるほど。それを言われたらそうかも」

『うっ』


 大丈夫? 犬束いぬづか先生、生きてる?

 ともあれ、脅しのネタが消えた事で副会長はボソボソと呟き始めた。


「あれは・・・昨年のゴールデンウィークでした」


 連休時にイベントがあって参加したところ、カメラマンの中に奴が居たらしい。副会長は潰していた胸を元に戻して汗を拭っていた際に更衣室に入り込んだ奴によって撮影されたそうだ。


「それなんて盗撮じゃないの」

「まさにそれでしたけど」

「けど?」

「顔もバレてしまいまして」

「あー。身バレしたから」

「脅しのネタに使われて言いなりになっていました」

「それなら広報誌の件は?」

「彼が新聞部と結託して私の名前を使って入稿しまして」

「ああ、新聞部も同罪なのね」

「それの領収書は?」

「新聞部の部長が持っています。費用は生徒会持ちですけど」

「酷い話もあったものだな」

「本当に酷い話だね。証言が出て証拠もある」

「実際に動くとしたら、来月の請求書が届いて奴が支払う頃合いだな。今のままなら逃げられる」

「そうね。現状の証拠だけだと厳しいかもね。仮に職員会議にかけるとしても」

「初犯扱いで停学一週間が妥当でしょうね」


 結構、軽い罪になりそうだね。大金が動いているのにね。


「それは盗撮と脅しに関してだけど」

「え? そうなんですか?」

「私的横領は別物よ。警察が動く内容だしね。但し、用件が用件だけに会議は踊りそうだけど」


 ああ、生徒会会計がやらかした。

 だがそれは、あき君の一件とは別物だから、今までの心証を加味して緩くしようと動く先生方も居るだろうね。現状の職員室でも全員が全員居る訳ではないからね。部活動に出張っている先生達も居るから。

 するとあき君が、


「会長。生徒会のパソコンってノートです? それともデスクトップです?」


 何を思ったのかパソコンの種類を聞いてきた。


「パソコン? デスクトップだが? といってもシンクライアントだから」

「では本体は何処に?」

「職員室の隣にあるわよ」


 シンクライアントって何なのだろう?

 あき君は気づいていて問いかけているけども。


「何かあるの?」

「復旧が早すぎたからな。投稿自体はスマホからも可能だが」

「あ、まさか?」

「そのまさかですね」


 あき君と生徒会長だけが気づける話? なんか少し妬けちゃうなぁ。

 生徒会長はあき君を連れて職員室の隣に入った。


『ログを拾って貰えますか。接続先のIPは』

『えっと・・・ヒットしたわね』

『用意周到でも杜撰過ぎる管理ですね?』

『ある意味で助かったとも取れるけどね』



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