第5話 それは嫌だ
誰かの話し声が聞こえる。自分の状況がわからない。俺は何をしていた。俺に何があった。体に上手く力が入らない。1つわかるのは何か柔らかい物の上で俺は寝かされているらしい。
そうだ。俺ははえ座と戦闘をした。最後の記憶はプールサイドだ。…ではなぜ、柔らかい物の上にいる?
目を開けると、そこは知らない天井だった。辺りを見回す。すると、そこには今一番会いたくない2人が俺が寝ているベッドのそばに置いた椅子に座り、会話をしている。それを見て今の状況に合点がいった。
「やっと気がついた!あっ…えっと…大丈夫?」
「…なんでお前らがここにいる。」
「わざわざここまで運んであげたのに、そういう言い方はないでしょ。」
白上 由衣と水崎 日和。2人の幼馴染がそこにいた。どうやら気を失った俺を保健室まで運んでくれたらしい。普通ならお礼を言うべきだが、どうしても俺は関わって欲しくないという気持ちが勝ってしまった。
俺はまだ言うことを聞かない体を引きずり、ベッドから立ち上がろうとする。
「ちょっと!?どこ行くの!」
「帰るんだよ。」
ここにはいられない。これ以上こいつらを危険なことに巻き込みたくなかった。しかし、やはり星力を使いすぎてしまったようで、上手く歩けない。倒れそうになる俺を由衣が支え、無理やりベッドに座らせようとする。俺は力が入らないため、抵抗できず座らされる。
「ねぇ…どうしてそこまでして戦うの?」
「お前に関係ないだろ。」
「確かに…関係ないよ。あんな怪物たちに関わらない方が正しいのかもしれない。」
「わかってるなら関わるなよ。」
「でも!友達が怪物と戦ってるのを心配しちゃいけないの?私達は戦う力はないよ。そんな私達が関わったら怪我どころじゃ済まないかもしれない。」
「だったら!!」
「でも!!それがわかってても、私はまー君が心配なの!…最初の頃、覚えてる?私さ、周りの子とどうやって関わったらいいかわからなくって。ずっと1人だった。でもそのときに、まー君が1人は寂しいよってみんなの輪に入れてくれた。私それが凄く嬉しくってね。私、まー君のお陰で変われたんだ。だから今度は私がまー君の助けになりたいの!」
俺は言葉に詰まる。
やめろ。やめてくれ。
2人が俺のことを友達だと思い、心配してくれているのはこの数日で痛いほどわかってる。
それがこの3年間で変わってしまった俺であろうとも。
だが、その思いには答えられない。
俺は2人とは一緒にいられない。
もう一度俺は立ち上がる。今度はしっかり立てる。由衣を押しのけ、今度こそ俺は保健室から出ようとする。
由衣が呼び止めているが無視する。しかし、もう1人の幼馴染が出口に立ちふさがる。
「ちょっと、無視して帰るつもり?」
「俺に関わらないでくれ。」
「そればっかり。由衣はこんなに心配してることに何も思わないの?」
「そういうわけじゃない。」
「だったらなんで。」
俺はまた言葉に詰まる。
普通に高校生活が許されるなら俺だって仲良くしていただろう。
でも俺にはそれはできない。
もうあのような出来事を繰り返したくはない。
だから、全てを捨てた。
俺は無言で日和を押し退けて保健室を出ようとする。
しかし、日和も抵抗してくる。
押し合いをしていると黙っていた由衣が後ろから話しかけてくる
「まー君は何も話してくれないけどさ。きっと私達には想像もできないぐらい辛いことがあったんだよね。もう全部話してとは言わない。また仲良くしようとも、もう言うわない。でも私はまー君が話したくなるまで待ってるから!」
「由衣…。」
今の由衣の言葉を日和は想像していなかったのだろう。日和の抵抗する力が弱くなったので、俺は押し退けて保健室を出る。
立ち去る俺の背中に向けて由衣が言葉を投げ続ける。
「でも1つだけ約束して!絶対に、まー君も死なないでね。それだけは…嫌だよ。」
俺は止まることなく保健室から立ち去る。
やはりここには居られない。
今の俺は、由衣の純粋さから目を逸らしたかった。
☆☆☆
あれから数日後のホームルーム。日当たりが良い俺の席はとても心地よく、先生の話を若干聞き流しながらぼんやりしていた。
由衣と日和はあれから話しかけてこなくなった。
その代わり、他に面倒なことがあったのだが。
学校で派手に戦闘したおかけで、校長を始めとした教師陣に呼び出されて酷く問い詰められた。しかし、途中で理事長を名乗る人物が俺を庇い有耶無耶にしてくれた。俺としては助かったのだが、あの理事長は何者なのだろうか。何か知ってそうな人は現在この街にいないので聞くことができない。まぁ、これは帰ってきたときに覚えていたら聞くことにする。
と、ぼんやり考えていると誰かが俺の机を叩いた。
面倒なので俺は寝てるフリをする。するとその誰かは「まー君〜!?」と言いながら俺の肩を揺する。
あいつだ。仕方なく俺は目を開ける。
「何だ。もう関わらないと言っただろ。」
「そんなこと言ってない!無理に話を聞こうとするのをやめたの!…というか先生の話聞いてた?」
先生の話は聞き流していたから記憶に残っていたない。正直無視したい。しかし、無視をすると余計面倒になりそうな気がする。そして今は何もすることはないし、澱みも墜ち星も関係ない。仕方ない、今回ばかりは話に付き合うか。
そう思い俺は黒板に目をやる。
「遠足の班決め…だろ?それがどうした。」
「どうしたじゃないでしょ。話やっぱり聞いてなかったでしょ。」
「何だよ。」
「班。どうするの?」
決めてるわけないだろ。俺はずっと自分の席に座っていたのだから。というか遠足なんてどうでもいいというのが本音だ。
由衣の方を見る。怒ってるな、これ。何で俺は怒られているんだ。仕方ないので俺は事実を口にする。
「決めてないが。それがどうした。」
「どうしたじゃないでしょ。…まー君、そんなに会話下手だった?」
「下手とは何だ。」
「じゃなくて、決まってないんでしょ?私と組むかなぁ〜と思って誘いに来たの。」
余計なお世話だ。そもそも、関わるなと言った相手となぜ遠足の行動を共にしなければならない。というか、こいつと同じ班になると凄く疲れる未来が見える。それは勘弁して欲しい。
どうにかして断る言い訳を考える。
しかし、由衣は待たずに畳み掛けてくる。
「私と組むのが嫌なら、他の人と組む?でもまー君、相手が私だからいいけど、他の人だとその態度ダメだと思うよ?」
それはそれで嫌だな。しかし事実であることは間違いない。
つまり、今の俺はこいつと同じ班になるか、赤の他人と同じ班になるかを選ばなければならない。どっちも嫌だな。
どうにかならないか考える。
そしてすぐに3つ目の選択肢を思いつく。これなら両方とも避けられる。その考えを口にするよりも先に由衣が口を開く。
「あ、遠足休むのはなしだよ?別に休んでも私はいいけど…多分理由を聞いたら先生に怒られるよ?」
何なんだ今日のこいつは。何でこんなに強気なんだ。
3つ目の選択肢を潰された以上、どちらかを選ばなければならない。
俺は仕方なく選択する。
「…お前と班を組めばいいんだろ。」
「言ったね〜?じゃあ、決まりね!」
そう言うと由衣は俺の席から離れて黒板前で椅子に座ってる担任のところへ行く。嵐は去った。俺はもう1度目を閉じる。
本当は行きたくないし、由衣と行動するのもあまり気が進まないが仕方ない。
それに、遠足先に澱みも墜ち星も出ないだろう。そう考えると少しだけ気が楽になった。
数分経ったはずなんだが由衣が帰ってこない。俺が目を開けると黒板前でまだ先生と話してる。面倒事の予感がする。仕方なく俺も黒板前に行く。
「何してんだ。」
「あ、まー君。いやね、2人しかいないのは流石に駄目なんだって。」
「2人?…お前、他には友達いないのか?」
「いますけど〜!?」
「じゃあ、なんで2人だけなんだよ。」
「いやそれは……」
と由衣は口ごもる。
さてはこいつ俺と班を組むことに集中していて、他のことは何も考えていなかったな?
俺はため息をつきながら、由衣に質問する。
「じゃあ、どうすんだよ。」
「だから…どうしよか…って…。」
「お前本当に何も考えなかったのかよ。」
「いやだってぇ…。」
「私、余ってる。」
話しかけてきた1人の女子生徒。名前を
これで3人になった。しかし、それでも駄目らしい。
「4人だったらいいんだけど、3人だったら1人ずつ別の班に入って欲しいんだって〜。…どうする?」
「どっちでも。」
「お前が決めろ。」
「ん〜…。4人にするならどこかの班から1人引き抜いて来たらいいって言われたけど…」
「じゃあ、私がここに入ろうか?」
「麻優ちゃん!?…いいの?」
「うん。私の班はちょっと人多かったからね。」
と、女子生徒がもう1人増えた。なんで女子ばっかなんだ。まぁ、そんなことどうでもいいが。
名前は
「で、これで4人になったからいいんじゃない?」
「うん!麻優ちゃんありがと〜!」
2人は担任と話に行き、俺と華山だけが残された。
「ねぇ、あの2人って陽キャ?」
「長沢 麻優は知らないが、白上 由衣は少なくともうるさいタイプだ。」
そういうと、彼女はため息をついた。
おそらく、俺と考えていることは同じだろう。
賑やかな遠足になりそうだ。
☆☆☆
終礼が終わり、俺は足早に教室を出る。
今日は特に由衣に絡まれる気がした。
下駄箱で靴を履き替えるとき、1人の女子生徒が話しかけてきた。
「凄く急いで帰ろうとするじゃん。」
「お前は…。」
「長沢 麻優。さっきは話せなかったからさ。せっかく同じ班になったから少しだけお話したいなぁ〜って。」
やっぱりこいつも由衣と同じタイプの人間か。
面倒に感じた俺は何も言わず靴を履き立ち去ろうとする。
こういうタイプのやつとは関わらない方が時間の無駄にならない。
しかし、彼女もまた諦めが悪い人間のようだった。
立ち去る俺を追いかけながら話し続ける。
「ちょっと!?無視はないんじゃない?」
「じゃあ何のようだ。」
「誰にでもそんな態度なの?」
「だったら何だ。」
「いやぁ〜。噂になってるよ?入学初日に同級生の女子生徒を泣かせた男子生徒がいるって。」
…身に覚えしかないな。でも、俺にはどうでもいいことだ。しかし、こいつはそんなどうでもいいことを話すために来たのか?
「だったら何だ。何が言いたい?」
「白上 由衣はあなたの昔からの友達なんでしょ?仲良くしてあげなよ。」
「お前には関係ないだろ。何だ、由衣に頼まれたのか?」
「違うよ。ただ、どれだけ仲のいい友達であってもある日突然、永遠に話せなくなる…ってこともあるからさ。後悔しないようにって思って。」
その言葉には重みがあった。まるで自分にそういう経験があるかのように。
「お前、それは…。」
「話はこれだけ。付き合ってくれてありがとうね。じゃあ、また学校でね〜。」
そう言い残して長沢は立ち去っていく。
後悔。
たくさんある。
俺はもう、あのようなことはしたくない。
だから俺はこれ以上増やさないために、2人と一緒にはいられない。これが2人にも俺にも最適な答えなはずだ。
そう自分の中で再び結論付け、俺は歩き出した。
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