第4話 迫りくる魔の手

ある日、国家の治安を守るとある組織で会議が行われていた。


「なんだこの報告書は」


男が一人静かに怒りを表す。


「お言葉ですが、この件のターゲットである『織姫』は『雛』の最高傑作です。」


「こういうことが起きないように予算を割いていたんじゃなかったのか?」


「それは…………」


「それにだ。その最高傑作とやらわ民間人と一緒に逃走しているのだろう。何故痕跡すら見つけられない」


「……………」


「人員を優先配置することを許可する。特に『雛』は全員この件に回せ」


「それは!?」


「同胞の裏切りは同胞で蹴りをつけさせないとな」


「わかりました」


少年少女を追う影は刻一刻と2人に迫っていた。




2人が世の中から身を潜めて3日が経っていた。

追手を見つけることはあれど、今のところは見つからずにやり過ごすことが出来ていた。


そして『ホシノヨシヒコ』はその生活に慣れ始めていた。ある1点を除いては……………


「う〜ん」


目が覚めると彼女がいない


「まさか!オダさん!?」


慌てて彼女を探すヨシヒコ。


「あっ、起きたホシノくん。おはよう!」


「おはようオダさ………ンンッっ!?」


目の前にはタオルで髪を拭きながら歩く上半身を何も身に着けていない『オダミヤビ』が…………


「どうしたのホシノくん…………ッッ!?ごっごめんなさい!!」


「いやいや!僕こそごめんなさい!!」


慌てて後ろを向くヨシヒコと髪を拭いていたタオルで上半身を隠す『オダミヤビ』。


意中の女性と一緒に過ごすのは、ウブなヨシヒコには刺激が強かった。


(さっきのオダさんの姿…………ケンイチにバレたら殺されるだろうな)


【ある目的】の為に町中を歩く2人。先程の件もあり町中を歩くにしても微妙な空気となっていた。


「ねぇ、オダさん。学校にそろそろ連絡とか入れなくていいのかな?僕達3日も無断欠席してるけど…………」


「ごめんねホシノくん。それはダメだ。私達の敵は私達の情報を細かいところまで把握してる。これまで暮らしていた私達の学校は当然マークされてるから出入りをしたら他の皆まで巻き込まれちゃう」


「そっか、わかった」


「…………後悔してる?」


「いや、ふと友達の事を思い出しただけだから気にしないで」


「そう…………」


「オダさんは学校生活は楽しかった?」


「そうだね。あんなにも学校にいたことは無かったから、これまでと比べると楽しかったかも」


「うちに来るまでは転々としてたんだっけ?」


「そうだね。家の用事でいろんな場所にいったな〜」


「へぇ〜どんなところ?」


「国内は全部行ったね。海外も20ヶ国以上は行ってるかな」


「凄いご家族なんだね…………」


あの後、『オダミヤビ』から家族が役所の仕事に勤めていてその手伝いをしていると聞いたヨシヒコ。


この3日間一緒に過ごしドラマや映画で観でしか見たことのないスキルをまじまじと見せつけられ彼女もまた【そういう人】なんだと理解していた。わかってはいても彼女から話してくれない限りは【そこに】触れるのは辞めようとも決めていた。


「ホシノ君」


小声でヨシヒコに話しかける『オダミヤビ』。

目線を下げるとピースをして指同士をつけたり離したりしていた。


頷くヨシヒコ。


(つけられてる…………)


平然を装いつつ自然と歩くペースを上げる2人。


視線を彼女に向けると、まだ警戒をといていない


彼女の視線を追うとショッピングモールが見えた


(オダさん。ここに入るの?)


服の袖を微かに掴み人差し指でショッピングモールを示す。


耳をかきながら親指を立てる『オダミヤビ』。ヨシヒコの予測は当たっていた。


ショッピングモールに入ると『オダミヤビ』は親指と小指を立てる。それを確認すると2人は距離を取った。


(どっちが目当てなんだ?)


振り返ると既に『オダミヤビ』は姿を消していた。


ヨシヒコに彼女のようなスキルが無い以上。彼女が【仕事】を終わらせて合流してくれることを待つしかなかった。


「あれ?ヨシヒコじゃん」


不意に声をかけられて焦るヨシヒコ。声の主は自分の事をよく知る友であった。


「ケンイチ…………」


「お前今までどこにいたんだよ!急に学校来なくなったと思ったら音信不通になって!!心配したんだぞ!!!」


『モリタケンイチ』はヨシヒコだと確信を持つと急いでヨシヒコの前に立った。


「なんでこんな時間に?」


「別に休日にショッピングモールにいたっておかしくはないだろ。」


「えっ……·……」


「なにか事件に巻き込まれてるのか?」


「いや、それは・・・・・・」


「オダさんに至っては事件の加害者だなんて噂も出てて、わけわかんないよ」


「!?」


(オダさんは事件のことはまだ世間には公になってないと言っていたのに、なんでケンイチがそんな噂を知ってるんだ?)


「オダさんどこにいるんだよ?」


「なんで僕がオダさんの居場所を知ってることになるのさ」


「とぼけるなよ!?お前とオダさん同じ日に学校サボってそれ以来来てないんだ!?そういうことだろ?」


「いや、たまたまオダさんが・・・・・」


「嘘つくんじゃねーよ!?」


ヨシヒコの胸倉を掴むケンイチ。その表情は切羽詰まって見えた。


「ケンイチ?」


「動かないで」


「!?」


『オダミヤビ』が音を立てること無くケンイチの後ろに立つ。


「オダさん!・・・・・!?」


(ちょっとオダさん!?)


右手でケンイチの肩を抑えた『オダミヤビ』の左手のナイフがケンイチの背中を捉えていた。


「なんの冗談だよオダさん。クラスメイトにそんな物騒なものを・・・・・」


初めて見る『オダミヤビ』の瞳にケンイチの顔は青ざめる。自然とヨシヒコを掴む腕の力が抜けていく。


直ぐにヨシヒコの側に身体を寄せる『オダミヤビ』


「行こうホシノくん」


「えっ、でも」


「ごめんなさい」


それがどちらに向けられた言葉なのかはわからない。少なくともケンイチが2人の視界からいなくなるまで『オダミヤビ』は後ろを振り返らなかった。


そして翌日から『モリタケンイチ』が学校に通う事は無かった。

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