第3話 本当の彼女

時計の日にちが変わった。『ホシノヨシヒコ』の部屋は勿論真っ暗であるが、そこにはいつもとは違う張り詰めた緊張感が漂っていた。


「ねえオダさん。本当に人が襲ってくるの?」


「うん。私が思ってる人達なら簡単なんだけどね」


「どういう意味?」


「ねぇホシノ君。君のご両親って……………」


キイィィ…………


部屋の扉が開く音がする。


(ちょっと待って!誰か入ってきた!?)


(しっ。動かないで!)


おかしい…………両親はもう寝ているはず。襲撃して来るなら外からしか考えていなかったヨシヒコは動揺する。なのに何故部屋の扉が開く?


(下には父さんと母さんが寝てるんだ!それなのになんでオダさんの襲撃者が部屋に現れるのさ!?父さんと母さんは!?)


(ホシノ君落ち着いて!見て)


部屋に入ってきたのはヨシヒコの父親であった。


(なんだ父さんじゃないか。驚かすなよ…………)


(………………)


ヨシヒコの父親は部屋を物色し始めた。


(父さん。僕の部屋で何をやってるんだ?)


(………………)


一通り部屋を物色した父親は携帯電話を取り出し誰かに電話をしている。


(母さんは下にいるだろ?誰と電話してるんだ?)


電話をしながら何かに気がつく父親。


(気づかれた)


(えっ)


ベッドの布団を剥がすと、沢山の荷物が置いてあった。


「やられた…………ターゲットに人質をとられました」


(人質?)


(そう私は今ホシノ君を拉致した犯罪者になっちゃったって訳)


「えっ!?」


思わず発した声に父親が反応する。


「ヨシヒコ!いるのか!?いるなら返事をしなさい」


(あちゃー)


(ごめんなさい)


(どうしようかね……………)


(どうしよう…………ってエェェ!?)


父親が胸ポケットが取り出したのは、ドラマや映画。そして自分のやってるゲームでしか見たことのない黒い筒だった。


(父さんが拳銃を取り出した!?どういうこと)


(ホシノ君落ち着いて!?)


再び物色して父親は部屋を出た。


(父さん部屋を出たな……………)


「ホシノ君。君は一旦ご両親に身の安全を」


「わかった」


ヨシヒコは隠れていた場所から身を出し部屋の扉を開けると


「グフッ」


腹部に激痛が走る。


「ヨシヒコ!」


「父さん…………何をするのさ」


「すまん。どこにいた?」


「ずっと部屋にいたよ」


「そうか………なんで声かけたのに返事しなかった?」


「こんな時間だよ?寝てたに決まってるじゃないか」


「そうだな…………」


「それよりもどうしたのさ突然」


「なんでもない」


「そう。じゃあおやすみ」


「……………」


振り返り部屋の扉を開けようと手を伸ばすヨシヒコ。すると後頭部に何かを突きつけられた。


「とう…………さん?」


「ヨシヒコ。何を隠している?」


「隠すって、なんのこと?」


額の汗が頬を下る。


「今さっき父さんはお前の部屋を確認したからな。何処かで誰かと身を潜めていたのはわかっている」


「それは…………」


「言え!誰を匿ってる」


「父さんこそ、何を隠してるのさ!なんでそんな物騒な物を父さんが!!」


「ヨシヒコ!!」


「ホシノ君!ドアから離れて!!」


突然目の前の扉が開き、『オダミヤビ』が飛び出す。飛び出したミヤビは父親に飛び掛かる


「君は!?グハッ!!」


2人は階段を転げ落ちた。


「父さん!オダさん!!」


「大丈夫だよ…………」


『オダミヤビ』の声だけがする。


「オダさん……………」


「ホシノ君来ないで!!」


今まで聞いたことの無い『オダミヤビ』力強い声に驚きながらも駆け足で階段を降りる。


「なっ!?」


そこには母親と取っ組み合いをする『オダミヤビ』の姿が


「母さん!オダさん!!」


「ヨシヒコ!?」


「ッッ!ごめんなさい」


ヨシヒコに気を取られた母親の隙を見逃さず、『オダミヤビ』の拳が母親の腹部に直撃する。


気を失う母親とその母親の前に立つ同級生の姿にヨシヒコは理解が追いついていなかった。


「オダさんどういうことなの?なんで父さんと母さんを?」


「ごめんなさい。今はこうするしか無かったの。安心してご両親は気を失ってるだけだから」


「……………」


「ホシノ君。今ならまだ間に合うわ、今ならまだ引き返せる……………どうする?」


「……………行くよ」


「ホシノ君」


「違和感はあったんだ。悪い両親では無い。けど何処か家族というより他人って感じの距離感があって」


「……………」


「父さんがあんなテレビや映画で観るような姿が出来るとは思ってもみなかった。勿論オダさん君もだけどね」


「そうだよね」


「知りたいんだ。両親とそして君の本当の姿を」


「そっか」


「だから、父さん。母さん。ごめんね…………僕。行くよ」


「ありがとうホシノ君。……………ごめんなさい」


こうして育った家を出ることとなったヨシヒコ。その3日後、まことしやかに少年少女は正体のわからない者達から追われる身となっていた。

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