純潔な美女

笑輝みつきは目の前の美女に覚えがあった。

忘れるはずは無い。

色の白い大きな瞳の人形のような美女。


「あのぅ。これ、うちの郵便物に混ざってたので届けにきました。」

るいはKirito宛に届いた手紙を渡す。


「あ、すみません。」

「じゃあ・・・」


涙は手紙を渡すと、軽く会釈をして階段を上がった。

左耳に髪をかける仕草が、とてもセクシーだった。

笑輝はしばらく動く事ができなかった。


「どうした?笑輝。」


店長の長谷川が声をかける。


「あ、すみません。」


笑輝は開店の準備をしながらも、涙の事が頭から離れなかった。


「なんだ、笑輝、なんかボーッとしてないか?体調悪いのか?」


先輩スタイリストの今井が声をかける。


「え?いや、今井さん、2階のサロンに、すっごい美人いません?」

「2階?ああ、及川さんね。キレイだよな、あの人。」

「及川さんていうんですか・・・」

「でもキレイすぎて、俺には高嶺の花だな。彼氏もいるだろうし。」

―――彼氏・・・


昔、粧子が言っていた「愛人」という言葉を、思いだす。


―――まさかな。粧子の思い込みだろ。


◇◇◇◇◇◇


「あ、涙さん、ありがとうございます。」

「え?な、なにが?」


2階のサロンに戻ると、未有が声をかける。


「郵便物ですよ。持って行ってくれて、ありがとうございます。」

「あ、ああ、大丈夫。全然。」


涙は心ここにあらずといった様子だ。

あきらかに動揺していた。

ドキドキ・・・

ドキドキ・・・


「あ、そろそろみえますね。お客様・・・涙さん?」

「は、はい。うん。わかった。」


涙は動揺を抑えながら、仕事に戻った。


――なんていう人なんだろ、あの人。

あんな人、今までいた?ぜんぜん知らなかった。


1人目のお客様がみえ、未有の初めての施術が始まった。


「大丈夫よ。ゆっくりリラックスして始めて。」

「はい。失礼します。」


未有は軽く深呼吸をしてからスチームの電源を入れ、クレンジングクリームを手に取った。


未有の初めての施術は完璧で、とくに手助けをする必要もなく終わった。


「はあ〜。緊張した〜。」

お客様を見送った後、未有は安堵の表情を見せる。


「大丈夫よ。未有ちゃん、全然心配いらなかったわ。バッチリよ。」


涙は微笑む。


仕事が終り、1階に降りると、美容室はもう閉まっていた。

涙は少し彼の事が気になりながらもビルを出た。

帰り道、涙は後ろから気配を感じ、少し早く歩く。すると、相手も早く歩く、怖くなり、少し振り返り後ろを確認すると、知らない男がつけてきた。


――いやっ、誰か!


涙は走るが、ハイヒールの為、早く走れない。男にうでを捕まれ、路地に連れて行かれる。


「誰か!誰か来て!助けて―!」


大声を出すが、時間も遅い為、人が通らない。


男は、涙の口を塞ぎ、ブラウスをたくし上げる。


―――いや!!助けて!!誰か!!!


「何やってるんだ!!」


涙に覆いかぶさっていた男が吹っ飛ぶ。


「大丈夫ですか!?」


目の前に立つのは、「あの人」だった。

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