一生モノの宝物

桃福 もも

大正自転車ロマン

「おい、六じゃねえか」

六は、縁台に座り、煙草をふかしていた男に声をかけられた。

「えっとお」

「俺だよ、俺、弥助。なにぼんやりしてんだい」

「ああ、弥助さんか」

「どうしたんでい。浮かない顔して。えらい仕事に励んで、そりゃあスゲー宝物を手に入れたって聞いたぜ」

「おお!そうなんだよ!聞いてくれるかい。実はよ、おいら、自転車を買ったんだよ」

「自転車!そりゃハイカラなもん買ったじゃねえか」

「おう!もう嬉しくってよ。一生懸命、乗る練習もしたんだわ」

「ありゃ、なかなか難しいんだろ?」

「そりゃもう、難しいなんてもんじゃないぜ。だけどよ。乗れるようになってみな。そりゃ、もう速いのなんの。風だぜ風!気持ちいいのなんのって」

「へー、いいじゃないか、え?それで、どこ行った?」

「せっかくだからよ、ちょっと遠いが、ご隠居さんの所まで相談に行こうと思ってよ」

「相談かい。遠くたって構わないよなあ。自転車があるんだもん。え、それで、解決したのかい?」

「そうりゃあ、もう。やっぱりご隠居さんに間違いわねえ」

「ほうほう。一体何を相談して、どんなお言葉を頂戴したんだい?」

「うん、金がなくなっちまったんだけど、どうやったら又手に入るかって相談したんだわ」

「うん、それで?」

「自転車を売ればいいってんで、売ったら金が出来た」







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一生モノの宝物 桃福 もも @momochoba

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