第3話

「……」


 誠二がバックから大きめのビニール袋を取り出す。


(噛まれたらヤバいかもしれない)


 細菌感染の可能性が誠二の脳裏に浮かぶ。


(空気感染とかならお手上げだな。そんときはそんときか)


 誠二の狙いは単純明快だ。このビニール袋をゾンビの頭に被せ嚙まれないようにする。その後にゾンビを排除するというものだ。


(確証なんかない。だけどやらないよりはマシだろ)


「……っ!」


 誠二が走る。そのままゾンビの右側に回り込み、頭部にビニール袋を被せることに成功する。


「おあああああああああ」


「ふっ…!!」


 その場で軽くステップを踏みつつ、体重を乗せた強力な右足蹴りでゾンビの膝元を蹴り飛ばす誠二。


(グチャッとした嫌な感触だな…)


 誠二の狙い通りゾンビは半回転しながら転倒する。


(今の内に…!)


 誠二が大急ぎでバイクに駆け寄りキーを差し込む。軽く軽快なエンジンが始動した。


「よっしゃ!!」


 そのままアクセルを全開。


「くたばりやがれ…!」

 

 おまけとばかりに目の前に転がるビニールを被ったゾンビを引いていく誠二。


「うはははは!!」


 肉が弾け飛ぶ音と奇妙な高揚感。それらを感じつつ誠二は校内から脱出した。



 20××年4月1日 10時00分

 

「……」

 

 舗装された長い山道。その道をひたすらにバイクで走り続ける誠二。速度は40キロ程でキープしていた。


「…自動販売機か」


 速度を落とし、路肩にバイクを寄せ片足を地面に付ける。


「ちょっとだけ休憩するか」


 エンジンを停止させ、バイクを押しながらゆっくりと誠二が自動販売機に近づく。平日という事もあり休憩スペースに人影はない。


「ふう…」


 硬貨をコイン口に投入しボタンを押す。聞き慣れた落下音と共に缶ジュースが投下された。


「んん。…やっぱコーヒーとかにするべきだったか?」


 口内で弾ける炭酸の感覚を味わいつつ、誠二がベンチへと腰を下ろす。


「あ~…疲れた」


 ボンヤリとした脳みそで今後の行動方針を考える誠二。


(とりあえず、まずは食料品の確保だな)


 この騒動がどれ程の規模で起こっているのかはまだ分からない。だからこそ、最悪の事態を考慮しつつ行動しなければいけない。その事を彼は理解していた。


(食べ物や水は絶対に必要になる)


(武器は…気が早すぎるか?)


(いや、仮にこの騒動が全国規模で起きてるなら必要になるな)


(となると、手っ取り早いのはホームセンターあたりに行く事だが…)


「…そういえば、近くに大型のスーパーがあったな」


(武器は後回しだ。とりあえず食料を買えるだけ買っておかないと)


「うっし…行くか」


 ゴミ箱に空き缶を捨て、再びバイクを走らせる誠二。


(次の目的地はスーパーに決定。目標は食料品だ)


 バイクの速度を上げ目的地を目指す。そうだ。モタモタしている暇などないのだ。


 ___世界はもう、壊れ始めているのだから。

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