第2話

「…逃げないとヤバい」


 誠二が停止していた脳みそを無理やり再回転させる。一刻も早くこの場所から脱出する事が最優先と彼は判断した。


(急がないとパニックに巻き込まれる。出口が人で詰まったら最悪だぞ)


 荷物を大急ぎでまとめ誠二が全力で裏口を目指し走り出した。


「きゃあああああああああ…!?」


「……!?」


「………」


(始まったか…!)


 後方から巻き起こるパニックの声を無視し、誠二は走り続ける。裏口のドアをタックルに近い形でブチ開け外に飛び出す。


 「ハアッ!ハァ!ハァ!!」


(バイクだ…とりあえずバイクさえ確保すれば何とかなる)


 目標を大学校内にある駐輪所に変更し体力のペース配分を変更する誠二。そこには彼が通学用に愛用している125ccのバイクが停めてある。それに乗れさえすれば当面の危機からは脱出する事ができるのだ。


「ああああああああああああ!?!? 」


「助けてえええぇぇぇ!!!!」

 

 同級生が捕食される光景を見ても誠二の足は止まらない。脳裏を過る情報は同級生達の無残な最期の姿ではなく「敵対者」の情報だけだ。


(体中に歯型を付けたやつ。腕が無いやつ。血塗れになったやつか…)


「…ハアッ!ハァ!」


(…まさかゾンビとかそんな感じじゃねえだろうな!?)


「…冗談じゃねえぞ……」


 

 一度も足を止める事無く、誠二が駐輪所に辿り着いた。


(どこに停めたんだったかな……)


 誠二が警戒しつつ1台1台を確認していく。


「…っ!?」


 慌ててその場でストップする誠二。遠目に見える誠二のバイクの前に、血塗れの人間が倒れていたからだ。


「…どっちだ?」


 体中に噛み傷、そして片腕の欠損から死体である事は間違いない。だが問題は「そこ」ではないのだ。


(ただの死体か?それともまさか……)


 誠二の疑念は最悪の形で正解していた。


「…痙攣してる」


 ___ピクピクと魚のように死体は痙攣し、死体が起き上がった。


「おああああああああああああああああああ」


「…間違いない」


 1歩2歩と、死体が誠二に近づいて来る。その姿に大助はこの騒動の答えを確信していた。


「こいつら、ゾンビだ……」


(…ちくしょうが。…どうする?どうすればいい?)


 あまりにも現実離れした現状に誠二の体が強張る。


「…ふうううう……落ち着け」


 深く深呼吸をして、乱れ始めた呼吸を元に戻す誠二。


(とにもかくにも、この男をどうにかしないとバイクを発進させることは出来ない)


「そうなると、やる事は1つしかないか」


(この化け物を…排除する……)

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