イマジナリーに恋をする

ワッフルEX

第1話 幻の彼女

僕は現実を諦めた


可能性は無限大だが、人に拡張性は無い

柔軟な思考は、凝り固まった思考に勝てない

変化を唄う者はいれど、変化へ踏み込む者はいない


小学6年生という歳で、双色唯一ふたいろゆいつはその事に気がついてしまった。いかに人生がつまらないのかを…



この世界にはアニメのような物語は存在しない

奇跡も希望も存在しない

ただ空虚な終わりへと続く、虚しい道


それからの日々は灰色で、人に期待できなくなった


それでも、表面上は「感受性豊かな子供」の仮面を被り日々を過ごす。アニメのような幻想に満ちたキャラクターを演じ続ける


それは、せめて自分の周りだけでもアニメのような物語の世界にするという、僕の最後の足掻きでもあった


そして、中学1年の冬…僕は限界を迎えた…



……………


目を開けると、知らない天井が広がっていた


天井は白色で、照明は天井に埋め込まれている学校タイプ。右を向けば窓と花瓶。左を向けば棚と小型テレビ、そして、僕はベットに寝ている


これは、僕が事故に巻き込まれた、もしくは病気が原因で入院することになったということだろうか


病院へ搬送される前に、僕が何をしていたかを思い出そうとする。そして、ある異変に気がついた


記憶がない


これは、いわゆる「記憶喪失」というものだろうか

これなら、自分が入院している理由も納得だ


そんな風に考え込んでいると、一人の少女が突然現れた。それも、扉を開ける音や足音すら立てずに


少しボサボサしている黄緑色の髪。優しく光る薄黄色の瞳。フリルの付いたオーバーサイズの服


一目で分かった。彼女は絶世の美少女だ


僕の顔を見ても出ていかないあたり、間違えて入ってきた訳ではなさそう。ならば、僕が忘れてしまった友達なのだろうか


彼女の正体を考えていると、相手の方から話しかけてきてくれた。彼女は僕が記憶喪失だと知っているのだろうか


「目が覚めたならお医者さんを早く呼んだ方が良いいと思うよ。それとも二度寝をかます気かな?」


そう言いながら、彼女は僕の右側に移動して顔を見下ろしてきた。そして満面の笑みでこう言った…


「私はイマ。君の想像が生み出した、幻のガールフレンドです!」


その言葉に、僕は理解が追い付かなかった

幻のガールフレンド? つまりイマジナリーガールフレンドってことだろうか


なぜ、女である僕が…そもそも彼女の言っていることは本当なのだろうか? 


試してみる他無い


僕は、混乱した頭で彼女へと手を伸ばす…そして、その手を彼女の肩に掛けようと手を落とし…その手は彼女の肩をすり抜けた


驚くことに、イマには実態は無かった

目の前にいる少女は、正真正銘の幻だったのだ


僕は目を見開いて驚き、彼女の顔を凝視する。イマは変わらぬ態度でニコッと笑ってきた


彼女の笑顔で逆に落ち着いてきた


僕はベットに力無く倒れ、瞳を閉じる

目蓋が、病室やイマと名乗る自称イマジナリーガールフレンドの少女を遮り、視界を暗闇で覆い尽くす


そして僕は、頭の中でカウントダウンを数え始めた


10


9


8


7


6


5


4


3


2


1


0

僕はゆっくりと目を開ける…すると、イマの姿は消えていた。やはり、病気か何かで幻覚を見ていたのだろう


だが、イマの顔には見覚えがあった。どこかで必ず見たことがある。それも、一度や二度ではなかったような気がする…


彼女が幻だとしても、ベースとなった人やキャラクターはいる筈。しかし僕は、その人物の顔を忘れてしまった


その人は…大切な人だったはずなのに



----------------------------------------------------------------


病室でボーッと外を眺めていると、看護師さんが入ってきた。そして、僕を見るなり目を見開いて、誰かに連絡をした


数分後、僕の病室に、白衣を着たチョビひげのイケオジがやってきた。見た目からして医者だろうから、彼のことは「先生」と呼ぶことにした


先生に記憶が無いことを伝えると、先生は少し考えてから、軽く状況を説明してくれた


先生の話によると、2週間程前の雪の日に、僕にとって嫌な「何か」が起こり、ジリジリと心が削られていった。そして、つい先日、トリガーとなることが起こり、心と身体が限界を迎えたとのことだ


そしてもちろん、何が起きたかは教えてくれなかった

僕としても、聞きたくなかった


記憶以外の問題は軽い栄養不足などで、入院期間は1週間だけらしい。しかし、記憶が落ち着くまで学校を休むのも良いと、先生は言っていた


より細かいことは、保護者が来てからすることとなり。それまでの間に、僕はいくつかの検査をすることとなった


どんな検査をしたかと言うと…何の検査をしているのか分からないものばかりで、看護師さんから説明されても、全く理解できなかった



すべての検査を終えて、自身の病室の扉を開けると、見覚えのある黄緑色の髪が視界に入ってきた


「検査お疲れ! 大変だったね」


などと言って、イマは普通に現れて話しかけてきた。しかし、僕は無視を貫き、彼女を通り抜けてベットに座る


「ねぇーえー! 無視しないでよー」


イマはそう言いながら、僕の頬をツンツンと突っついてくる。しかし、イマがいくら頬を突っついても、指が頬を通り抜け、その感触は伝わってこなかった


しかし、声は聞こえてくるし、感触が無くとも反射的に反応してしまう。そのことにイマも気がついて、より早く突っつき始めた


「ねっ!ネッネッネッネッネッネッネッネッ!」


ここまでくると、流石にうざくなってきた


無視するのを諦めて、僕は今の方を向く。しかし、イマは突っつくことに夢中で、そのことに気付かず。両手を使い、突っつきまくってくる


「うざい」

そう言って、僕はイマの頭にチョップをかました。その手に衝撃は伝わらなかったが、イマの方は「いてっ」と言って両手で頭を押さえている


「君って、感覚があるの?」


「あっ、初めて喋ってれた。えっとね…感覚は無いけど、痛いような気がしたの。だから~なんとなく?」


そう言ったイマは、首をコテッと横に傾けて疑問の視線を送ってくる。どうやら、本人もよく分かっていないらしい


「はぁ。とりあえず、そっちには感覚があるってことでいいんだよね?」


「そうなるね」


「それなら、叩いて…ごめん」


「そうなるの?!」


「感覚が無いと思っていたとしても、人(幻覚)を叩くのは悪いこと。だから…ごめんなさい…」


記憶を失う前の僕は、人を殴るような奴だったのだろうか? いいや、きっと違う。もしそうなら、罪悪感なんて感じないはず


「お詫びに、何かしてほしいこととか…ある?」


「う~ん…私は気にしてないんだけど…そうだ」


何かを思い付いたイマが僕に顔を近づけてきて、少しドキッとしてしまった…


「今度、2人でデートしようよ!」



----------------------------------------------------------------


人物紹介


双色唯一ふたいろゆいつ 

記憶消失の少女で、一人称は「僕」

容姿は、肩にかからない程度の長さの白髪に、色白で細い身体。瞳の色は水色


身長156cm

好きな食べ物 無し


表情筋が柔らかいので、ウィンクやおたふくなどの、可愛い表情表現ができるが、大抵の事に冷めている


記憶を失った際のストレスのせいで髪色が変わってしやまったが、本人は昔の髪色を覚えてないので、あまり気にしていない



イマジナリーイマ 

記憶を失った唯一の前に現れた、謎の幻覚少女

唯一と長さが同じ黄緑色の髪に、唯一程ではないが色白な身体。瞳の色も黄緑色


身長156cm

好きな食べ物 全部


表情豊かで天真爛漫。元気ハツラツでうるさい子ども…と唯一からは評価されており。本人もその事を認めて自慢気にしている


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イマジナリーに恋をする ワッフルEX @WaffleEX

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ