第29話 開拓Ⅱ

俺は魔の樹海の境界に来ていた。

付近はすでに軍が安全を確保しており、簡易拠点が建設されている。簡易拠点にはすでにいくらかの魔物の素材と建築資材を持ち込んだ商人たちで賑わっている。

既に現地入りしていたレイナースが俺を見つけ駆けよってくる。


「陛下。こちらにおられましたか」

「あぁ。順調そうだな」

「そうですな。まだ浅いエリアになるので魔物も弱いものが多く、順調ですがこの先の中層や深層になると手こずるかと」


さすがにそこらへんはゲームの時と一緒か。

樹海の入り口である浅層は弱い魔物が多く、中層に入るとオークなど厄介な個体が多い。深層になるとドラゴンが出ることがある。ドラゴンは珍しいうえにかなり強いがなんとコミュニケーションを取ることが出来る。

まぁ取れるからといってドラゴンは人間をゴミのように思っているから仲良くなれるという意味合いではないが…。


閑話休題


軍も動員しているが、近衛騎士団も活躍している。

やはり強力な魔物の個体は軍で対応するより、優秀な者たちで選抜された近衛騎士団の方が安全なのだ。平野だったら軍もなんとかなるが、いかんせん障害物の多い森では連携が取りにくいのも一因だ。

軍も魔物の盗伐に合わせて木の伐採や井戸を掘ったり、重労働もこなしている。


「必要なものはあるか?」


レイナースは顎に手を当て考え込む。


「強いて言うならば…娯楽が必要でしょうか?ここらへんは駐屯地と違って街を1から作っている状態です。非番のやつらは商人から酒を買って飲んでいることが多いです」

「娯楽か…」


確かに…なんかストレスを発散できるものがいいな。

オセロとかカードゲームが頭をよぎるが、そもそもそれらを量産する体制から作らないといけないと考えると今すぐの問題解決は難しいように思える。


う~ん。なにかないかな前世の記憶を頼りに頭の中の記憶をこねくり回す。

ふと視界に魔物の皮が映り、ひらめきがあった。

俺は魔物の素材置き場に近づく。


「すまん。これをもらっていく」

「へ、陛下!?どうぞ!」


置き場を警備していた軍人は驚いた顔を見せる。

すまんな。横領な気はするが、許してくれ。


「陛下。そちらでいったいなにを?」

「まぁ楽しみにしといてくれ」



後日。

俺はヴェリエールに命じ、魔物の皮を細工し球のようにした。

そしてそれをわきに抱え、森の外にある平原でレイナースや非番の軍人たちを集めていた。

平原には向かい合うように、鳥居のような木のフレームが向かい合うように置かれていた。


「諸君らも任務ご苦労。娯楽がないこの環境では退屈なことも多いだろう。そんな諸君におすすめのスポーツがある。サッカーだ」


最初レイナース含め、軍人たちは聞きなれないサッカーにはてなマークを浮かべていた。俺が説明し、実際にやってみせ彼ら自身もやってみると、軍人たちは熱狂したようにサッカーを楽しんでいた。


楽しんでいる様子を見てると観戦してるやつが増えてきている。ほかの非番の軍人たちや、その人だかりを見て商人たちも寄ってきて簡単な酒やつまみを売りさばいてる。まぁこれはこれで楽しそうだしいいか。


お、レイナースがその強靭なフィジカルで敵陣営の選手を吹き飛ばした。

まだ、みんなただボールを追いかけるだけの団子サッカーをしているが、それゆえフィジカルの強さが如実に差が出る。

さぁキーパーとの1対1だ。レイナースは足を振り上げ、一閃する。


パァアアン!


とんでもない音とともに、魔物の皮で出来たボールが破裂した。

レイナースは華々しく散ったボールを抱え、急いでこちらに駆け寄り跪く。


「すいません!陛下!」

「あぁ、うん。レイナース卿はサッカーの参加は禁止とする」

「そんな!」


熱狂していたレイナースは泣きそうな顔を浮かべる。イケオジがそんな顔するなよ。

まぁそうだよな魔物蔓延るこの世界でドラゴンすら狩る男の本気のキックに耐えれるはずないよな…。

ただ、彼らに新たな娯楽を提供できたのはよかった。最悪ボール1個あればできるしな。そのうち各軍団でサッカーチーム作らせて、大会開いてもいいかもな…もちろんレイナースは出禁で。



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