第7話 覚悟

都市の周りにはおよそ3万近い魔物がひしめいており、大地は真っ赤に染まっている。そして戦闘は未だ続いている。

都市の内部に魔物が侵入したようには見受けられない。

だが城壁の上のあちこちには魔物と人の死体が散在していた。

俺はこの世界に来れたことをワクワクしており、どこか理解していなかったのだろう。ゲームが現実になることの恐ろしさを。


中世に近い世界観もあってか、この世界では人の命が軽い。ゲームだった頃はなおさらだ。だが、俺はそんなプレイが嫌だったのだ。ランダムに生成される彼らはたとえ何人いようが、それぞれの特徴を持っており同じ人物はいない。彼ら彼女らのこの世界を必死に生きる姿に胸を打たれたのだ。


俺は自分が活躍するのではなく、彼らを引き立たせるプレイに切り替えたのは当然の帰結であった。人々を集め、支援し国を大きくした。

そうして大きくなった帝都の賑やかな人々の街並みを眺めるのが一番の楽しみなのだ。気を付けたとしても人はあっけなく死ぬ。城壁の上で散った兵士たちも後ろにいる家族や友人のため、戦友のためそして帝国のため戦って果てていったのだ。


彼らの犠牲の上に帝国…そして俺は立っている。

彼らは俺に忠誠を誓い、俺はそんな彼らを宝物と思っている。

そうだ。俺は果てていった者たち、今も忠誠を誓う帝国臣民のためにも帝国を導かなくてはいけない。例えどんな苦難が待ち受けようと。


いつだって何かをなすために必要なのは覚悟なのだから。


特性なんかじゃない。俺は「皇帝」なんだ。


「レイナース卿。帝国を臣民を、守るのだ。だれが敵だろうと関係ない叩き潰せ」

「ハッ!近衛騎士団総員抜剣!やつらに鉄槌を!」


近衛騎士団総員約1000人に支援魔法を掛け、彼らは突撃を開始した。

筆頭にレイナースが駆け、前線で大剣を振るう。ゴブリンやオーク、ゾンビの大群を豆腐を切るかのように貫く。

敵の渦中を駆け抜け、城壁の下に到着したときレイナースと目が合った。

俺は何を言わず頷き、護衛と開門した城門をくぐる。

レイナースは近衛騎士団の面々を引き連れ、城壁周りの敵を時計周りで掃除する。

俺は城壁内に入ってすぐシリスを見つける。彼女もこちらに気づいたようで安心したように疲れた笑みを浮かべる。


「良かった…カイン様間に合ったんだ」

「あぁ良くやった。シリスのおかげだ。少し休め」

「うん…魔力を使いすぎちゃった…あとはお願いカイン様」


倒れそうなシリスを抱え、彼女を近くにあった長椅子の上に寝かせる。


階段を昇り城壁の上に躍り出る。

疲弊した彼らに声を張り上げる。


「聞け!親愛なる帝国臣民諸君よ!私はカイン・レヴァン・アルカニスだ!近衛騎士団が敵を蹴散らしているが数は多い!誇り高き騎士達よ!この時、この場所で我らは戦友だ!寡兵で挑む近衛騎士団を援護するのだ!」


彼らの瞳に光が生まれる。


「皇帝陛下万歳!戦友を!祖国を守るのだ!」


兵士たちは興奮し、拳を振り上げる。

演説をしながらも都市にいる兵士たち全員に戦意を高揚させる支援魔法などを掛けていた。

城壁の上で勢いを取り戻した兵士たちは城壁から熾烈な攻撃を開始した。

城壁上からの支援でグランドマスターであるレイナースはさらに勢いづいた。戦場の趨勢はこちらの優利になりつつある。


そんな中、戦場の空気が変わった。

熱狂していた戦場に重圧がのしかかる。


俺は強烈なプレッシャーを放つ方角を見る。

上位オークを数体伴ったデュラハンがこちらに向かって歩いていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る