第4話 七星

「とりあえず、座るとしよう」


そういうと執事は円卓と人数分の椅子を用意した。

いや、どっからそのでかい円卓は出てきたんだ?


「みなに集まってもらったのはとある情報を共有するためだ。帝国に新たな脅威が近づいている」

「新たな脅威ですか…具体的にお伺いしても?」


そう聞いてきたのはノエル・アルトネイ。銀髪と翡翠色の目を持つ美女で帝国七星の末席。高いレベルの魔術を使えるが、彼女自身の交渉術がすばらしく帝国内の折衝や外交にも重宝する。


まぁそれはさておき。


「あぁまだ確定した情報ではないが、魔族という存在がいるようだ」


俺がこの世界に来る前に楽しみにしていた大規模アップデート。

その内容の目玉の一つが魔族領の追加であった。

魔族が実際にどんなものかはわからないが、弱いとは思えない。共有するべき情報ではあるが、まだ確認も取れておらず徒に帝国に住む全員に情報を共有するのは無用な混乱を招く恐れがあった。


「魔族…ですか、どの程度の強さなのでしょうか?」


ゼノ・ハーバー。帝国宰相であり、苦労人だ。俺の皇帝の業務が午前中に終わったのも彼の疲労の上に成り立っている。


「具体的な脅威度は判明していないが、強いと聞いている…正直に言うと、魔族がいるということが判明しているだけでそれ以外は分かっていないのだ。このような情報では無用な混乱を生む。それゆえ七星のみ集め共有したのだ」

「なるほど…では私のほうでもそれとなく情報を集めてみます」

「外部からの情報はノエルに頼むほかない。それと帝都防衛計画の見直しをバルト元帥とレイナース卿に任せる」

「えぇ。お任せください陛下」

「畏まりました陛下。お任せください」

「帝国の盾となるよう精進いたします陛下」


頼られたのが嬉しいのか笑みを浮かべるノエルには引き込まれるようななにかがある。なるほど…お固いお偉いさんでも口の一つは滑りそうになるなこれは。

帝国の外に赴くことも多い彼女ならば、なにかと情報を得る可能性は高い。


「よし。要件は済んだ。みんな仕事があるだろうに呼び立ててすまない」

「いえいえお気になさらず。陛下の呼びかけに答えるは臣下の務めですので。それでは私は早速情報を集めてまいります」


ノエルが部屋を出ると、みなみなが自分の職務に戻っていく。そんな光景を眺めながら感慨に耽っていた。


みんな緊張してか口数も少なかったが、ゼノは目の下のクマ凄かったし、バルト元帥も帝国軍を率いるものとしての威厳があった。会話には混ざらなかったが内気な天才錬金術師のライナは小動物みたいなかわいさがあり薬品なのかさわやかないい匂いがした。


ふと思考の海から上がると、執務室には傍に控える執事セイルともう一人残っていた。椅子に腰かけ腕を組み、目深に帽子をかぶり俯く彼女。


「なんか用があるのか?シリス」


そう声をかけるとぴくっと肩が動いた。

彼女は顔を上げる。


「あれ?カイン様もう会議おわった?」


そうだった…こいつはこういうやつだった。

セイルも同じ気持ちなのだろう。呆れたように溜息をついていた。

そしてシリスはこちらの様子を見てもにへらと笑っていた。

大魔導士でありながら、気さくな性格が彼女の良い点でもある。


「話は聞いていたのか?」

「あぁ~魔族…だっけ?まぁよくわかんないや!でも大丈夫!!」


シリスは立ち上がり胸を張る。


「カイン様の敵は私がすべて殲滅するから!」


ふふんと胸を張るシリスを見てると思わず笑ってしまう。そしてそれは大言壮語でもなく大魔導士としての技量によってその自信は裏付けられている。


「頼りにしてるよ」

「任せて!あっ!訓練の時間だ。遅れちゃうと怒られるからまたね~カイン様!」


そういって彼女は光の速さで去っていた。

彼女が去った部屋はどこか寂しく静寂が占めていた。


「紅茶をお入れします…」

「あぁ頼む」


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