第8話 文化祭で初めてのライブを楽しむ

「サッカーしてる事分かっちまったのかな?怪我に気を付けろとか言われたし!」


「ど、どうなんだろ?僕も小説書いてるの見抜かれた感が…」


 高校の文化祭が行われている校舎内を巡りながら先程の占ってもらった結果に光輝も玲央も驚いており、実はあの人凄い占い師なのではと思ってしまう。


「僕がこのまま書き続けたら何か大きな事が起こるかもしれないって、良い事なのか悪い事なのか…どう思う?」


「俺に分かる訳あるかよ、でっかい良い事だとしたらそりゃあ賞を取るとかそういうのだろうし」


「賞…ってそんな凄い所まで行けるのかなぁ…」


 光輝が今書いている小説のPV数を思い出してみれば3桁は突破している、作品をフォローしたり評価ボタンを押してくれたりと最初は全く通知の知らせが来なかったのが徐々にそういった通知が来るようになり、主に他の人がこの人のレビューを書いたという通知が来るだけのベルは新たな役割を担うようになる。



 だが賞を取るとなればその程度の伸びではおそらく取れはしないだろう。


 光輝の書く小説より見られていて評価を受けている小説は探せば星の数ぐらいにいくらでも出て来る、中には書籍化してもおかしくない名作もあり賞を取るという事は彼らの書く小説の中で読まれ、選ばれなければならないという事だ。


 小説の世界ではスポーツの世界のようなライバル同士が直接争い、競い合うような事は無い。


 読者に小説を見られなければ良い事だろうが悪い事だろうが何も始まりはしない、小説は見てもらってなんぼなのだから。




「大きな事かぁ」


 現時点でその大きな事がなんなのか想像つかない光輝、小説を書き続けて行けばいずれそこに辿り着き答えは見えて来るかもしれない。


 どちらにしろ今の作品を書き続けるというのに変わりは無かった。



「ところでさっきパンフレット貰ったんだけどさ、この後体育館の方でライブやるみたいなんだよな。無料みたいだし見に行ってみるか」


 玲央は配られていたパンフレットを受け取っており、見てみれば彼の言うとおり体育館で軽音部によるバンドが演奏を披露するそうだ。光輝に反対する理由など特に無い、2人は共に校舎を出て体育館へと歩いて行く。


 自分達の通っている小学校の体育館より立派で大きく、まさにそこはちょっとした会場だった。


 大勢の人混みの中に紛れ、壇上のある方を見てみる。今はカーテンで見えないがこの後にバンドが登場してライブが行われるのだろう。


「テレビとか動画サイトぐらいでしかライブって見た事ない…」


「マジで?生だとすっげー迫力だからな、そっちで見るより全然違うぞ」


 光輝はこれが初めてのライブ、玲央が実際に見た方が良いと勧めていると場内の明かりが消えて周囲は暗くなる。


 その中でカーテンの方に照明が照らされつつカーテンが開かれるとスポットライトを浴びた状態でバンドは登場した。



 演奏するのはいずれも制服姿の女子高生、センターでマイクを持つ茶髪でショートヘアのボーカル。左に立って構える黒髪ロングのギター。右に立つ桃色髪でツインテールのベース。後ろで両手にスティックを持って座る金髪ボブのドラム。


 彼女達がこのステージ、ライブを奏でてくれる主役だ。



 曲は序盤静かな感じで始まり、段々リズムが上がって来るとサビになればハードロックへと変わり場内の盛り上がりは最高に達して行った。


 気づけば光輝達の周囲にいる観客は彼女達へと大きな声で声援を送っており皆が女子高生バンドに夢中、玲央もノリで周囲と同じように声援を送っており見ていた光輝は控えめで周囲の大声にかき消されるぐらいの声をステージの彼女達へと向けて発していた。


 実際見るライブは胸にズシンと来るような感覚があり、テレビや動画では味わった事が無い。


 光輝の初めての高揚感と共にライブは終盤を迎え最後まで彼女達の演奏は観客を飽きさせなかった。








「はあ~、すっげえライブだったぁ!」


「うん…なんていうか、惹きつけられたっていう表現はこういう時に言うのかな?」


「分かんないけどそうじゃね?」


 ライブが終わり場内は再び明かりが灯されて元の状態へ戻っており、興奮が残ったまま光輝と玲央はバンド達について語り合っていた。


 客は続々と会場を出て行き光輝も席を立とうとした時。


「光輝、今出たら多分すっげぇ俺らプレス状態食らいそうだからちょっと待とうぜ」


「あ、うん」


 体育館の出入り口を見れば多くの人で混雑している状態、彼らより身長や体格で劣る小学生の2人が今出入り口へ向かえば混雑に巻き込まれ人の波に押されそうだ。


 玲央は後で出ていこうと提案すると光輝もその案に乗る。



「なあ、さっきのライブみたいなのも小説のどっかに入れたりとか出来たりしないか?有名バンドと主人公達が遭遇!な感じでさ」


「うーん、音楽関係での話かぁ…そういえば書いていないし、ありかもしれないかな」


 今のライブを小説に取り入れるのはどうだろうと玲央が身を乗り出して光輝に小説のネタを伝える、バンドや音楽関係を今のところ光輝の書いている小説でそれは絡めていないので新たな話としては悪くないかもしれない。


 音楽とかその専門用語とかで色々分からなかったりするがそこは検索して調べながら書いていくしかないだろう。



「にしてもあのお姉さん達あれでまだ無名かぁ、そのうち有名になれそうだしサイン貰った方が良かったかな?」


「書いてくれるかどうか分かんないけど…」


 惹きつけられる音楽で会場の注目を浴びた彼女達、全国的に無名のバンドであり今のうちにビッグになるかもしれない予感が伝わったのか玲央はサインを今から貰いに行こうかと悩み始める。


 そんな気軽にサインを書いてくれるのかと光輝が横で先程のアイデアを考えていると。




「サイン欲しいなら書いてあげよっか?」


「!?」


 聞こえた女性の声、2人が揃って声のした方向を見る。



 気づけば観客達はもうすっかりいなくなった後であり彼らの声はよく通っており彼女達の耳に入っていた。



 光輝と玲央の前に立つのは女子4人組、先程までステージでライブをしていた本人達だ。

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