第7話 占い師のお姉さんに内気な少年はドキッとなる

小学生である2人が数年経てばこういった高校に自然と通う日々が来るはずだが、今日は文化祭が開催されている日。


在学している制服姿の高校生だけでなく一般で入っている客の姿もあり出店の食べ物を購入し、傍のベンチや広場で食してる光景は食べ盛りな光輝と玲央の食欲を唆られる。


ただ彼らのように買おうにもそこまでの予算は持ち合わせていない。


「見てるだけで腹減って来そう…とりあえず他見て回るか」


「そうだね…」


このまま出店の食べ物を見ているだけでは味気ない上に魅力的な誘惑に負けて少ない予算を使い切りそうなので、玲央の提案に光輝は乗って文化祭をまずは一通り見てみる。


初めて来る高校の祭りイベント、商店街の祭りに行って色々な出店を親と巡り楽しんだ事はあるがそれとはまた違った新鮮さがあった。


あの時と違い友達と2人だけの知らない高校に入っての文化祭。


ちょっとした冒険に思えて光輝は胸の高鳴りを感じていた。



外は主にたこ焼き、焼きそば、クレープと食べ物系の出店が目立っており射的や輪投げといったゲームの店まで置いてある。


光輝と玲央は校舎内の方へと歩き進み、中へ入って行くとビンゴゲームで盛り上がったりお化け屋敷で悲鳴が聞こえたりと様々な高校生による出し物がそこにはあった。



「そこの少年2人、良ければ占いはいかが…?」


「え、僕達…ですか?」


校舎内を歩き回る光輝と玲央に話しかけて来た女性の声、2人が振り向けば大きな透明の玉があるテーブルの前に座り黒いフードを頭に被り女子制服を着た暗い雰囲気を漂わせる女子高生。占い師となりきって出し物に参加しているらしい事がなんとなく伝わる。



「普段なら占い料金は取るけどキミ達は…小学生でしょ?だったら無料でやってあげる…顔可愛いし」


「無料?マジ良いのお姉さん?じゃあ占ってもらわなきゃ損だよな!」


「そ、そうだね…?」


占い師である女子は最後に何か呟いていたがその声は光輝と玲央に聞こえていなかった。



この占い師の女子高生が本物かどうかは分からないがどちらにしても無料なら得だと玲央は乗り気で占ってもらい、水晶玉らしき玉が乗るテーブルに女子高生と向かい合う形で玲央は座った。


「私が見るのは手相、人の手を見て占うの…キミの右手の掌を広げて見せて」


「あ、うん」


「(水晶玉関係無いんだ…)」


てっきり水晶玉で何か念じて占うものかと光輝は思っていたが占い師は全く使わない、ただの雰囲気作りの為に置いてあるだけらしい。



「もっとよく見せて、見えづらい…」


「わ…」


そう言うと占い師は右掌を見せる玲央の手に触れていた、その時にフードを被る顔がよく見えて黒髪ボブで可愛い系の女子だ。


年上の女性から手を触れられて玲央の頬は徐々に赤く染まって行く。



「なるほど…うん、そう…へえ」


玲央の手に触る占い師は何か分かったのか納得するように頷いていた、彼女にしか見えないものが何か見えたのだろうか。傍から見ている光輝にはさっぱり分からずにいる。



「分かったわ、キミの運…」


「え?ど、どうなんだお姉さん?俺良いの?悪いの?」


やがて占い師の手から玲央の手は離れ占いの結果が出たようで、玲央は自分の運がどうなっているのか気になってしょうがない様子。




「生命線がとても強く出ていて健康、だけど怪我に注意。いくつか短い頭脳戦があってキミは考えるより行動するタイプのよう、直感で行動して良い方に転ぶ事が結構あるみたい」


「それは…ええと、怪我さえ気をつければ良いのかなこれ?」


「そうね、全体的には運が良い。そういうスポーツをする時は充分気をつけるようにね」


玲央はサッカーをやっている、それを見透かされたような感じで玲央は驚いていた。次のサッカーの試合は怪我に充分気をつけてプレーするよに心掛けようと占いの結果を信じ、光輝に席を譲り立ち上がり代わりに光輝が今度は占い師の前へ座る。



「じゃあ右手出して」


「は、はい」


先程の玲央と同じく光輝も右手を開き掌を見せて差し出すと占い師は光輝の手を触れ始める。



「柔らかっ…良い手だわぁこれ…」


「え?」


「独り言よ、聞き流して」


「はあ…」


まるで堪能するかのように光輝の右手に感触を確かめるように触れる占い師、何か光輝に聞こえた気がするがそれは独り言だと占い師は強調。



「はい、見えた…」


「…どう…なんでしょうか?」


やがて占い師は光輝の手から離れ、占いの結果を伝えようとしている。


結果を待つ光輝は思わず喉をごくっと鳴らす。




「キミ、小説に興味あるか書いてる?」


「!?」


占い師から言われた言葉に心臓がドキッとなって光輝は大きく動揺してしまう、同じように隣の玲央も驚く表情をしていた。


初対面であるこの占い師に小説の事など一切教えていない、にも関わらず光輝が小説に関わっているのではと占い師に言われれば驚くものだ。



「頭脳戦が長い、こういうのは熟考を好み自分の世界を持っている。なので小説家や学者に哲学者、そこからキミの年齢を考えて興味持ってそうなのは小説の方と思ったから、後半辺りは占いというか推測だけど」


まるで光輝の小説に登場する探偵のような推理をしてくる占い師、彼女は探偵の方が向いているのではないかと光輝、玲央の2人は揃って同じことを思った。


「その世界を追求し続けたら、いずれ何か大きな事が起こるかもしれない。強運にそれがなるのかどうかは、キミの力次第」


「お、大きな事…ですか」


小説で何か大きな事を起こそうと思って光輝は書いているつもりは無い、そしてその大きな事は何か、良い事か悪い事かも不明だ。



「後付け足すと、キミ達は2人揃うと運気が上向きになって良い事が起こる…それと同時に多くの女性の影が見えるわね」


「え、ど…どういう事?」


「さあ、私もこれは初めて見るものだから。ただ2人はなるべく一緒の方がラッキーな確率高いと言える、それが女性と関係してるかは分からないけど」


光輝と玲央、2人揃っていれば運は良い。つまり2人は相性が良いという事だが、同時に大勢の女性の影が見えると占い師から言われどういう意味なのか分からずだ。


ただ無料で見てもらっているのでこんな感じなのかと光輝も玲央も思い、とりあえず互いに一緒にいようとは思っていた。


「それじゃ、占ってくれてありがとうお姉さんー」


「お世話になりました…」


玲央は手を振り、光輝は頭を下げてその場を後にして校舎巡りを続ける。




「…そりゃ、ああいう可愛い子2人揃ったら年上のお姉さんとか放っておかないっていうか?はあ、やっぱり少年は尊い…癒される~」


「あの、占ってほしいんだけど?」


「あ、店仕舞いです。急に体調悪くなって…こほんこほん」


光輝と玲央が去ってから新たに男の客が来たが占い師の好みではないようで仮病を使い占いは店仕舞い、無料で見たのはただ光輝達が好みのタイプだったという理由だ。

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