第2話

「ケモ神様が完全復活したらこの村は救われるの」


「当然じゃ、この石版によれば完全復活をしたケモ神様は無敵じゃ」


 ちょーと、待て! なんかオレに対してハードルをめちゃくちゃあげてないか⁉️


 耳のパーツはくっついたけど、HPと防御力が1から2に上がっただけだよ!


 たぶん他のパーツがくっついてもステータスの上昇は微々たるものでしょ。


 だからオレは無敵にはなれないよ。


「それじゃ、魔物のガロン族も倒してくれるの?」


「当然じゃ。 そのためにケモ神様は我らの元に現れてくださったんじゃ。 我らの心からの儀式に答え、ケモ神様が現れた。 ケモ神様は我らにとっての勇者じゃ!」


 ってことは、オレをこの異世界に召喚させた張本人はお前たちか!


 しかもオレをガロン族という魔物に戦わせようとしている。


 魔物ってどう考えてもつよいだろ……。


 どう考えてもオレは死んじゃうよね。


 オレのステータスなんかゲームキャラのレベル1よりも弱い数値だよ!


 ―――レベル1……レベル??


 そういえばオレのステータスにはレベルの表記がない。


 通常ゲームなら敵を倒したりして経験値をため、一定の経験値が貯まるとレベルが上がりステータスの数値が上昇する。


 しかしオレにはレベルの概念がない。


 でも三角のパーツを装着したらHPと防御力の数値が上昇した。


 つまりこういうことか。オレにはレベルアップという概念はなく、パーツを装着する事によりステータスの数値が上昇するということ。


 仮にそうだとすると装着したパーツによって大幅にステータスが上昇することもあり得るということか。


 もしかするとスキルも習得できるかもしれない。


 しかし腑に落ちないことがある。 ケモ耳達はどこからオレに付けた耳のパーツを見つけてきたんだ?


 今いるこの異世界はまさにファンタジーというな感じの世界だ。


 見える景色も立派な木々が森を形成し、大空には見たことのない鳥が舞う広大な大自然。


 ケモ耳達も布一枚の質素な服に、家は厚手の布を円すい柱状に設置しただけの簡素なものだ。


 金属のパーツなど似つかわしくない。


 ましてや金属でパーツを作る技術など到底無理な話だ。


 そうなるとオレというロボットの存在だけが、この異世界では異質の存在なのだろう。


「長老、見つけやしたよ!」


 勢いよく走って来たのはケモ耳の大柄な男だった。


 その両手には二つの四角く薄い金属を持っている。


「ホゲゾウ、よーやった。 ところでそれはどこで見つけたんじゃ?」


「ホッコリ山のダンジョンでやす。 その奥深くの突き当りにある宝箱の中に入ってやした」


 んん⁉️「山のダンジョン。宝箱?」金属のパーツは宝箱に保管されているのか?


 そういうところはゲームっぽいな。 少しゲーマー心がうずいてしまった。


「どれ、早速そのパーツをケモ神様に接合させるぞ! ポケ爺、すまんがまた頼む」


「やれやれ、長老は人使いが荒いの〜。 どれ、石版を見せてみい。 うむ〜なるほど、これは足のパーツじゃな。 おい、誰かケモ耳様を仰向けに倒してくれ」


「ハイハイ!ホルンに任せて! ウチが頭の方を持つから、ホゲゾウは胴体の方を持って」


「おう、任せろ」


 おい、二人ともオレを精密機器のように大切に扱えよ。


 オレのHPは2しかないんだからな。


 ケガなんかさせるなよ!


「お、重い……ケ…ケモ耳…様…重い」


「ゴンッ!!」


 こら〜小娘、オレを大切に扱えって言ったろ!


 オレのHPは2しかないんだぞ!


 すぐに死んじゃうような体力なんだぞー!!


 ステータス画面をみるとHPの表示が2から1へと変わっていた。


 ほら見てみろ! HPが1だよ1!


 次にまた頭をぶつけたら死んじゃうよ、オレ!


「失敗しちゃった〜。エヘ」


 「エヘ」じゃねーよ! お前の村を守る勇者様がお前の行動次第で死んじゃうんだよ!


 わかってんの事の重大さ!


「次はちゃんと運ぶね」


 おい、さっきより手がプルプルしてるよ!大丈夫なの⁉


 長老さん、別の子が運んだ方が良いんじゃないですか!


 この子、また手を滑らせそうですよ!


「あっ、あと少し…」


「ストン」


 はぁ〜、ちゃんと運べたけど生きた心地がしなかった。


 でもピンクのケモ耳娘、まぁまぁ頑張ったな。


 オレの足元付近でポケ爺となのる技師の老人が作業する姿がうっすら見える。


「よし!これでどうじゃ!」


「ガシャン!!」


 ポケ爺さん⁉ もうちょっと優しく作業してもバチは当たりませんよ!


 あなた方の大切なケモ神様が、手荒な設置作業で死んじゃうかもしれませんよ!


 なんでこのケモ耳の人達はこんなにもガサツなの⁉


 オレを精密機器だと思って作業してよ!


「ポケ爺すごーい。 ケモ神様に足がくっついたね!」


「よし!ホゲゾウ、ホルン、ケモ神様を立たせてくれ!」


 おい二人とも今度は丁寧に立たせるんだぞ!


「うーん、やっぱりケモ神様は重いなぁ〜!」


「ホルン、もう少しだぞ頑張るんじゃ」


「うん。わかってるよ長老!」


「ストン」


「見てよ。長老、ポケ爺、今度はちゃんとできたよ。」


 ふー、良くやったな。 ホルンとホゲゾウ…ってホルンお前らは尻尾が生えてたの?


 尻尾を横にブンブン振って、まるで大喜びの子犬じゃん!!


 それだけ嬉しいってことか。


 ところで足が付いたけど、見える視界がさっきとほとんど変わってないんだよな……。


 そうだよな。あんな板みたいな足を付けたって、身長が伸びるはずがないよな。


「ねーねー、これでケモ神様は歩けるようになったのかな?」


 おぉ〜、そうか。足が付いたということはオレは今、歩行可能ということか!


 どれ、いっちょ歩いて見るか!


 ……何かが違う。 足が動かない……。


 なぜだ!なぜ足が付いたのに動かない⁉


 よく考えろオレ!付いた足は板状の足。


 そして前世のオレは身長170センチの日本人の男性。


 足はまぁまぁ長い方だった。


 そうだ。長い足にあるのは膝だ。



 ……今の極端に短い足には膝がない……。


 そうだ!今のオレには膝がないんだ!


 今更そう思うとなんっちゅう短足だ! 悲しくなってくる……。


 待て待て、悲しんでいる場合じゃない。


 まずは歩くんだ。 膝がない事をイメージして、足はピョーン伸ばすイメージ。


 そして股関節だけを前後に移動させる。


「ギューン、ガシャン」


「わー、ケモ神様が少し動いたよ!」


 よし!一歩進んだ。 このイメージで歩行が可能だ!


 という事は……逃げる事も可能って事だよな⁉


 ケモ耳達、スマンがオレは逃げさせてもらうぞ。


 いくら足が付いたとはいえ、こんな紙装甲の状態でガロン族とかいう強そうな連中とは戦えん。


 たぶん秒で殺される。


 さすがに転生してすぐに死にたくはないからな。 だからオレは逃げる‼️


 あとは逃げるタイミングだな。


 現状はオレが一歩進めた事でホルンを含めケモ耳達は喜び祭りのように騒いでいる。


 まさに今が逃げる好機なのでは!


 時は来た。今だ!逃げるぞ!!


「ガシャン、ガシャン、ガシャン」


 オレは前世で短距離走を得意としていた。


 今の走りで100メートルは進んだはずだ……はずだ……はずだよね……。


 って、視界が全然変わってない⁉


 あんなに足を高速で動かしたのに全然進んでいない……。


 オレの足はポンコツかぁ……⁉


「ねーねー。長老、ケモ神様が足をバタバタさせてカワイイ♡」


 カワイイ♡じゃーよ!オレは必死で走ったんだよ!なのに全然進まないんだよ……。


 ……なんか、悲しくなってきた。



 オレってホントにこの村のケモ神様という勇者なの?


 なんか全然実感ないよ……。


 ステータスはゴミみたいな数値だし、進むこともまともにできない……。


 マジでホントに嫌になる。


「キャーーーッ」


 なんだ?今の悲鳴はなんだ⁉


「何が起きたんじゃ⁉ ホゲゾウ、状況を説明せい!」


「長老…奴らが来た…ガロン族だ!」


「なに⁉ どこじゃ! どこにガロン族がおるんじゃ⁉」


「長老!あそこにおる! すぐそこの大きな岩の上!」


 大きな岩? って目の前のあの岩か。


 でもオレの今の視野角だと岩の上の方が見えん。


 そうだ。少し股関節の角度を後ろに倒せば見えるかも。


 ……な、なんだあれは⁉ 巨大な狼!


 全身は青白い毛皮で覆われ、その大きさはワゴン車よりもデカい。


 前世の熊よりもデカいぞ!


「何か臭うと思うたらお主達かケモ耳。 しかし相変わらず肉付きが良く、美味そうじゃの〜」


「ちょ、長老…どうしよう…ガロン族に見つかっちゃったよ……」


「…まさかこんなにも早く…見つかるとは…何のために拠点を移動させたか…意味がなくなってしもうた……」


「ひー、ふー、みー、全部で12匹か。 さすがに一人では食いきれんな!」


「どうしよう…長老…みんな殺されちゃう…」


「ホゲゾウ、ホルン。 まずは子供らを逃がす準備をするんじゃ!」


「わかりやした!」


「バズッ!ドサッ!」


「うわぁーッ!」


 おいおい、ヤバイぞ!ヤバイだろ!


 あの大柄のホゲゾウがいとも簡単にガロン族の前足で地面に叩きつけられたよ!


 ホゲゾウ、大丈夫か? 死んでないか?


 おい!そこのでっかい狼! そんなにデカい口を開けて…ホゲゾウを食う気が…。


 おい、止めろ!そんな酷い事、止めてくれ!!


「止めてーーーッ!」


「バンッ!」


 ホルン…お前…捨て身の攻撃で…ホゲゾウを助けようとしたのか…。


 でも、ガロン族、強すぎだろう…ホルンの攻撃がまったく効いていない…。


「ホホォ、このメスは活きが良い。 このオスより最初はこのメスを先にしょくすか」


「に…逃げろ、ホルン! おいらの事は気にするな!」


「に…逃げないよ…だって、ホゲゾウは大切な…仲間だもん……」


「これはこれは、熱いですね。 友情ゴッコですか? そういうのわたくし虫唾が走るんですよね」


「バシュッ!」


「キャーーーッ」

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