第4話 初陣

(ここから対勇者隊員アクラブ視点)


大魔王軍対勇者隊に自ら志願して入った俺は、強制的に決まった249人の仲間たちと共に東の勇者の元に飛ばされた。


「どこだここは……どの方角だ?」


あいにく俺は超方向音痴で、地図がほぼ読めない。それに、どの方角にどんな勇者がいるのかという情報も一切聞いていない。だからどの方角でも大して変わらない。


「ここは東の方みたいっす」


俺の隣にいた隊員、ルクバトが小さな地図を広げながらそういった。


「ここからさらに東……あの海が見えるところに勇者と要救助者がいるみたいだ。情報収集と市民の救出のため、あの方向に向かうように」


「承知しました」


隊長の一言で俺の仲間たちは一方向に走り出した。


————


俺たちが走ってたどり着いた先は、一般市民の魔族が全滅したゴーストタウンだった。


中には壊れている建物や、固体を残していない血溜まりもいくつかあった。


そんな廃墟と化した街には、5人の魔族ではない存在が立っていた。

おそらくこいつらが昔絵本で見た「人間」、そして大魔王様の言っていた「勇者」なのだろう。


「怪人を発見したぞ、お前ら!」


「まだいたのか?どこまでも湧いてくるなこの世界の怪人は……」


「この世界に私たち以外の人間はいないの?」


「早く帰らないと地球の安全が守られないよ〜」


「いい加減にしろ。こっちだって世界の平和を守っている」


カイジン?チキュー?一体何を言っているんだこいつらは?

もしや、人間の世界にはそう言った類のものがあるのか?

人間は独特で複雑な鉄の道具を魔法の代わりに使うと人間学の専門家だった親父から聞いたことがあるが、そんな道具があるのか?


「とりあえず、一気に片付けるぞ!変身!」


「「「「変身!」」」」


5人の勇者たちがそういうと眩い光に包まれ、光が消えた頃には全身の肌を覆い隠す、色とりどりの不思議な服装になっていた。


「総員、要救助者を探せ!」


隊長のその一言で、俺たちは一斉に勇者に向かって走り出す。


「怪人の群れが現れたぞ!これより天具を起動する!」


「「「「了解!」」」」


勇者たちが服の右腕についている出っ張った部分を押すと、そこから各々の武器らしきものが出現した。


赤い服を着たリーダー格らしき男(声から判断した)は、右手に持った持ち手が短い鈍器をぶつけ、それを当てられた魔族が一瞬で粉々になり弾け飛んだ。


他の色の勇者たちも、光の剣や巨大な斧、鉄の槍や謎の光線を出す杖などを取り出し、俺の仲間たちを理不尽に殺していく。


「クソ……キリがないな。この怪人どもは……」


「勇者たちと戦うのは危険すぎる!アレと戦うのはやめろ!一人か二人助けたら、大魔王様に報告するために帰れ!いいな!」


死者が5、60人ほど出たところで、隊長は全員に聞こえるほどの声量でそういう。


「ちょっと待ってください!勇者は倒さなくていいんすか!?」


「何を言っている?大魔王様は勇者を倒せなどとは一言も言っていない。むしろ真正面から衝突するなと言っていただろう」


————


「よくぞ集まってくれた、大魔王軍対勇者隊の団員たちよ。これより我々大魔王軍は勇者との初戦を行う。お前らの目的は二つ。割り当てられた各勇者勢力の詳細な能力や特徴の調査と、襲撃を受けている原住民の調査だ!まだ勇者の詳細がわかっていないため、真正面から衝突することだけは決して避けるように。それでは検討を祈る!」


お前らの目的は二つ。割り当てられた各勇者勢力の詳細な能力や特徴の調査と、襲撃を受けている住民の救出だ!


……まだ勇者の詳細がわかっていないため、真正面から衝突することだけは決して避けるように。


確かに大魔王様はそう言っていた。


————


「そして、現に何十人も死者が出ている現状、あの勇者たちと戦うのは無謀だと判断した。だからできる限り避けろ。そして、要救助者を探せ。分かったか?」


「はい、わかりました!」


できる限り勇者たちを撒くため、隊員たちはバラバラに分かれていく。俺は勇者から逃げながら、かなり遠くにある建物に向かった。


窓が割れていて、ドアも壊されている。中の明かりも全て消えているようで、薄暗い施設になっていた。


「フランボー」


俺は魔法で手から火を出し、それを光源にして中を探索する。


この火魔法は触れても熱くなく、モノを燃やすことはない。その代わり、光度が他の炎より高いため、照明用としてよく使われる。


「大魔王軍対勇者隊です。救助に来ました」


俺は外にギリギリ漏れ出さないくらいの声でそういう。


「あっ!お兄さん!助けに来てくれてありがとう!」


生まれて10~20年くらいしか経っていなさそうな幼い女の子がこちらを見ている。


その子は自分が出せる最大速度で走り出し、こちらに抱きついた。そういう一族なのか、彼女の出す移動速度は推定年齢の割に結構速かった。


「こっちについて来て。早くしないとこの施設に勇者さんが来ちゃうからね」


「分かった!」


俺は彼女を連れて施設を出る。


「お兄さん、名前はなんていうの?」


「お兄さんの名前はアクラブっていうんだよ。よろしくね」


「分かった!」


奥でドンパチやっている勇者どもを尻目に、俺は女の子を連れて逃げ出す。


すでに30人か40人くらいの隊員が大魔王城に向かっている。全員が隊長の命令通り生存者を連れている。負傷している魔族もいたが、お年寄りや赤子などを別にすれば、全員歩くのに支障はないようだった。


勇者たちを大きく引き剥がして大魔王城に辿り着くと、そこでは他の三方向の区から救出されたと思われる無数の一般人がいた。


大魔王城で働いている奴らや選ばれなかった大魔王軍の同僚たちが、彼らに食べ物や寝床を支給している。


「はぁ……はぁ……なんとか生き残ったぞ……」


「お兄さん、助けてくれてありがとう」


「どういたしまして」


助けた女の子と別れた俺は、そのまま対勇者隊の生還者たちが集まっている中央部に向かった。


————


(大魔王メガルファ視点)


「大魔王様。ズピノから聞いた話によりますと、今回の遠征で1000人中312人が生還、そして469人の現地住民が救出されました」


「分かった。……想像していたのと同じくらいの生還率だった。生還者たちは全員休ませ、現地住民には物資の配給と回復魔法による治療を徹底しろ」


「わかりました」


ディラノがそこから去っていくと、俺はコーヒーを飲みながら次の一手について考える。


「さて、次は詳しい情報を聞くとするか……」

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