森林

 曇天の空、リヨンの森林の中を2脚の白い巨体が動く。

 恐竜の形をした巨体、恐竜の骨のような物々しいデザイン、両腕にアイアンハンマーを装備した機械人形『ピアニッシモ』だった。

 1919年、機械人形初の2足歩行兵器としての華々しいデビューを飾るはずだった機体だが、休戦の影響で製造は中止に、その後3機の部品が消息不明になり、フランスの謎として長らく世間に知られることはなかった。

 前面の口周りには火炎放射器、両腕のアイアンハンマーとバランスのいい設計になっており、『フォルティシモ』の設計を生かし、大容量バッテリーとエネルギーの消費を抑える『エナジー・エンハンサー』を採用されており、1日で30時間前後まで活動可能である。

 機械人形の特性上、これまで1日10時間以下でバッテリーを交換しないといけないという問題があったが、『ピアニッシモ』ではエネルギー効率が抜本的に改善されており、まさに最高傑作機である。

 3機の『ピアニッシモ』はラムジンとその手下が操るものだった。

 猫の怪人マリー、ミリーを連れて総力戦を挑もうと試みたのである。

 「いいかお前ら、もう後に引けねえ!アルスバッハもルビーも死んじまった以上、手持ちの機械人形で攻めるしかない!金髪の軽装歩兵だけは必ず殺せ!仇討ちだぜ!」

 「おう!」

 「おう!」

 姉のマリー、妹のミリーは双子の猫の怪人で、元はキャルに仕えていたコンビだったが、彼女の命令によって、ラムジンを援護することになった。

 ラムジンは単機突撃を試みるつもりだった。

 しかしキャルは猛反対し、ラムジンの単機出撃を認めなかった。

 ラムジンはキャルの反対を押し切って出撃したため、キャルはマリーとミリーを予備の『ピアニッシモ』に搭乗させ、ラムジンの護衛を命じた。

 ラムジンは責任を取って最後は死ぬ気だったのだろう。

 想定していたキャルは最悪の場合、マリーとミリーに無理でも連れて帰れと命じたのだ。

 「あいつは、あの軽装歩兵だけは許せん。焼き尽くしてやる!」

 ラムジンの『ピアニッシモ』は頭部の火炎放射器から、炎を吹いた。

 美しい森林を燃やす紅の炎、マリーとミリーの『ピアニッシモ』も同じように森に炎を放つ。

 「へへへっ、これならあの軽装歩兵なんぞイチコロだ。キャルのやつにはいらん心配をさせたが、いい土産話ができるぜ!」

 そんな時、ミリーの『ピアニッシモ』の背部バッテリーから冴えた金属の衝突音が響く。

 「男爵?」

 ミリーは疑問に思った。

 それより早くバッテリーから火花が飛び散る。

 数秒もしないうちにミリーの『ピアニッシモ』は蒸発してしまった。

 「ミリー!」

 マリーが叫ぶ間もなかった。

 「そんな!ミリーが!」

 ラムジンは感じていた。

 「対戦車ライフル?やはり金髪の軽装歩兵か!」

 そう。

 『フォルティシモ』を初めて破壊した時と同じ時だ。

 「マリー!止まるな!」

 ラムジンの命令より、弾丸らしき何かがマリーの『ピアニッシモ』の左脚を射貫く。

 「おわああああああ?!」

 マリーの『ピアニッシモ』はのけぞるように転倒した。

 左脚は関節部を狙い撃ちにされたようだ。

 「マリー!てめえはそこで待機していろ!後で助けに行く!俺は屋敷を攻める!そうすりゃ、軽装歩兵なんぞ!」

 ラムジンの『ピアニッシモ』はマリー機を置いて、屋敷へと向かう。

 木々の中を抜ける『ピアニッシモ』、ラムジンはルビー、アルスバッハ、キャルのことを思い浮かべていた。

 必ず、あの軽装歩兵を抹殺する。

 ナチュレの威信にかけて、男爵として、この無念を晴らしてやる。

 「舐めやがって!」

 『ピアニッシモ』のデュアルカメラ越しにトラックのような車両が見えてきた。

 人影もいる。

 「なんだ?」

 その時、無線からザーという雑音が流れる。

 「僕の仲間も、お前たちのような死に方をした。今、この恨み、晴らさせてもらう」

 この若い青年の声、あいつか。

 ラムジンは怒りに燃えていた。

 トラックの荷台の人影、金髪の軽装歩兵アランだ。

 「態々、死にに来るか!」

 アランはトラックの荷台からドラム缶を蹴り、車両から突き落とした。

 「子供だましなんぞ!」

 『ピアニッシモ』に向かって転がるドラム缶、ラムジンは『ピアニッシモ』の火炎放射器から、炎を放つ。

 次の瞬間、ドラム缶が蒸発し、『ピアニッシモ』は炎に包まれた。

 「こいつは、オイルか!」

 ラムジンは自分のミスに気づいた。

 これは軍用車両の燃料だろう。

 燃料入りタンクに向かって火炎放射器を使ったのはまずいと悟ったが、あまりにも遅すぎた。

 アランが何かを手に接近する。

 「なんだ?!」

 そして手に持っていた物がガトリング『ジョワユーズ』であった。

 「なにいいいいいいい!」

 ラムジンの叫びも届く間もなく、アランはセーフティを解除し、引き金を引く。

 『ピアニッシモ』は両腕で防御の構えを取る。

 弾丸の数々が『ピアニッシモ』を撃ち抜く。

 「こんなやつにぃいい!」

 ラムジンは必死で防御するも、弾丸は『ピアニッシモ』の装甲をボロボロにした。

 腹部装甲を貫通する『ジョワユーズ』の鋼鉄の弾丸、貫通した瞬間にコックピットは炎に包まれた。

 「軽装歩兵めええええええええええええええええ!」

 ラムジンの断末魔、その数秒後には『ピアニッシモ』は跡形もなく蒸発した。

 炎の森の中で、アランはナチュレの復讐に一区切りついたことに安堵した。

 これで全てが終わった。

 アランは『ジョワユーズ』を地面に投げ捨てる。

 機械人形を持たないナチュレは、時期に壊滅の道を辿るだろう。

 黒煙に包まれた『ピアニッシモ』に背を向けるアランは、デスカに最後の報告をするため、屋敷へと向かう。

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