第21話 ノベルセラピー原稿
【注意!】
ここからいきなり読んでしまった方、きっと意味不明なので一つ前の投稿(第18話)を先に読んで下さい。
ノベルセラピー原稿(無修正)です。
*
*ノベルセラピー*
私はクリスタル。名前はローズ。
人間の年齢で言えば8歳ぐらいだけど、私は鉱物なので、人間とは比較にならないぐらい長い年月を、この地球で過ごしている。人間とは時間の感覚が根本的に違うので本当の年齢はここでは省略しておく。
最近採掘されるまで、悠久の時を地中で眠って過ごしていた。
時が満ちた。いよいよ私の次のステージが始まる。
ローズは新しい自分の在り方を思いわくわくした。
紫色の座布団はまあまあ座り心地が良かった。ここには、地球上の色々な場所からやってきた、他の仲間の石達が集まっている。私は別の国から、日本に連れてこられた。
運命の人に出会うために。
全ては順調に進んでいる。
思い描いた通りに物事が進んでいた。
この先起こることが楽しみでならない。
そう、ここは、さまざまな石を販売しているクリスタルショップだ。
毎日、お客さんが来て、私たちを見たり、手に取ってみたりしながら、気に入ったものを選んで購入していった。私はここにきて、もう1ヵ月位になるけれど、まだ運命の出会いはなかった。
私は他の石達と比べて少し大きくて珍しいと言われる石だから。少しだけ特別扱いで、鍵付きのガラスケースの中に入って、座布団にも乗せてもらっていて、値段設定もお高めだった。
「この石すごいねー」
「これは、ちょっと高いから手が届かないわよねー」
お客さんが私を見て口々にそんな風に言った。それに、なかなか、運命の人は現れなかった。
そんなある日、そろそろ閉店時間で店員さんも片付け始めているような時間だった。
閉店間際だというのに一人の女性客が入ってきた。
私はその人を見た瞬間『運命の人』だとわかった。
私は舞い上がってしまった。だって、他のどのお客さんとも違う。ちゃんとこの女性が生まれる前に会おうねって『約束』したんだ。
彼女は私を見つけた瞬間、私に魅せられるようにじっと見つめてきた。
『早く思い出して』と私は念じた。
彼女は店員に「この石触らせてもらっていいですか?」と尋ねた。思いが通じたのだろうか。
閉店時間が近いこともあり、店員さんはお片付けモードで、少し面倒くさそうに鍵を開けた。
彼女は私に手を触れた瞬間。
電撃が走るような感覚を感じたんじゃないかな。私は感じた。
『やっと会えたね』
彼女は泣き出した。
再開の涙だ。
やっぱり、思い出してくれたのかな。
「やだ、すみません。なんで涙なんて」
彼女は店員さんの手前、少し恥ずかしそうに手で涙を拭いた。
そして、その後、私の値札を見て驚いた表情になりそわそわしだした。
私の値段を見る前に、触らせてもらったんだろうな。
私は他の石達よりゼロが一個多いからな。
お手軽に気楽に購入を決断できないのが通常だと思う。
だからこそ、そのおかげで、本当に私を必要としてくれる人の手に渡ることができるんだけどね。
その女性の名前はまりあと言った。
年は40代だろうか。
でも、絶対あなたの元に行くと決めて生まれてきたんだよ。
電撃が走ったあのファーストインプレッションをぜひ大切にしてほしい。
その日、まりあは私を購入せずに帰っていった。
生まれる前に決めてきた約束であっても、実現しないこともあるかもしれない、と少しだけ不安がよぎった。
でも、私は絶対あきらめない。
まりあにテレパシーを送り続けた。
私、まりあは最近毎日会社帰りにクリスタルショップに通い詰めていた。
今日でこの石に会って一週間。
あんまり毎日通ったものだから、店員さんに顔と名前まで覚えられてしまった。
こんなに通っているのに何も買わないおかしな客だと思われているかもしれない。
お店自体はあまり混雑していないので、店員さんが色々な石の種類や特徴などレクチャーしてくれた。さすがクリスタルショップで働くだけある。知識が豊富だし、何より石が好きなんだという熱意が伝わってきた。
「まりあさん、その石気に入られたんですね」
「はい、でもこのお値段……ちょっと手が出なくて」
「そうおっしゃるお客さま、多いですね」
「他にも、この石が気になっている方いるんですか?」
「そうですね。沢山のお客さまがこちらの石をご覧になっていますよ」
この石と初めて会った時に運命を感じた。そして、この一週間、毎日、この石に会いに来た。いつも、立派な紫の座布団に乗って私を待っていてくれた。でも、他の人に買われたら、私たちはもうたぶん会えないんだよね。
それは、絶対イヤかも。
お金より大事なものもある。
「買います!!」
まりあが決断してくれて無事私を連れて帰ってくれた。
彼女は私との約束を覚えていたわけではないけど、忘れているようで心のどこかで覚えていたのかもしれない。
*
(あとがき)
ここまでお付き合い下さった方、本当にありがとうございました。
可もなく不可もない物語でしたね。
リアル友人を目の前にして、自分の中から出てきたストーリーを発表するという稀な事態から、何か感じるものがあるのだろうと思います。
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