南極物語と経理の花坂
桃太郎班はついに、桃太郎と犬原の2人となっていた。つまり、実質的に働いているのは桃太郎一人であった。雑談をする相手も余裕もなく桃太郎は黙々と仕事をこなしていた。そもそも、犬原とは飲み屋で話すので、わざわざ、職場で話すこともないのである。
桃太郎はアポイントのために電話の受話器を手に取ると、犬原は自席で泣き出していることに気づいた。桃太郎は凍り付いた。夜の飲み屋で副業している部下を指名し、いちゃいちゃしていることが会社にばれたら、さすがに桃太郎に出世の道はないだろう。しかし、わざと気づかないふりをする。しばらくしたら、きっと終わる。静かに泣き止むのを待とうと思った。
しかし、そんな犬原を気にかけている人物がいた。経理の花坂だ。
経理の花坂が話しかけえると犬原の涙は収まった。花坂と犬原の会話が少し聞こえた。
「昨日見た南極物語に感動しちゃって・・・」
それを聞いて桃太郎は密かに安堵していた。
犬原が泣き始めたことは、会社とは関係ないはずだった。しかし、犬原が席を外したタイミングで、花坂は桃太郎の席に来て苦言を言い始めた。
「あまり犬原君をいじめないでくれるかな?彼女も一生懸命やってるんだ」
「いじめてなんかいませんよ」
「一週間ぐらい前、またまた聞いたのだが、犬原くんへの出張精算の件、だいぶ怒ってたよね。君の叱り方、まるで鬼みたいじゃないか?」
「犬原君が出張精算できていなかったのをフォローしていただけです。そもそも、そんな言い方、『鬼』に失礼じゃないですか?」
「鬼に対してだと・・・」
今度は花坂の怒りの表情は、焦りの表情となった。
「それも、そうだね。失礼な発言だったよ。鬼に対して」
花坂の小言は終わった。しかし、桃太郎は思った。この苦言は、鬼に対してだけじゃなくて、俺に対しては失礼じゃないんかいと。
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