辺境方面地球行き

船越麻央

遠未来、地球へ

 これはいつかの記憶だ。

 私をあの場所へ連れて行ってくれた列車が、今目の前で停車している。


 今を生きる私にとって、過ぎ去った日々は文字通り過去でしかない。


 なのに、戻りたいと思った。もう一度あの場所に行きたいと思ってしまった。

 思うやいなや、無意識に踏み出した一歩が、私をあの場所へ連れて行く。



 ソル太陽系第三惑星、別名地球。すっかり荒廃した人類発祥の地、忘れられた辺境の惑星。人類の故郷。


 私は学生時代に一度地球を訪れたことがあった。細々とドーム都市内で生きる人々の生活を卒業論文の研究テーマに選んだのだ。

 環境破壊により荒れ果てた不毛の大地に、死んでしまった海。点々と存在する巨大ドーム。砂漠化したドーム外では人間は生きていけない。


 そして人類はワープ航法を開発、宇宙に進出し開拓、地球は歴史に埋没していった。


 そんな惑星を私は研究の対象に選んだ。旅費も高くついたし周囲からはなんと物好きなと笑われたものだ。私自身特段地球に思い入れがあったわけではなく、ただ他の学生と違うテーマを選んだだけだった。


 その日私は「辺境方面地球行き」列車型宇宙船で地球に降り立った。遥か大昔地球に存在した列車を模した長距離用宇宙船。帆船型宇宙船とともに人気があった。

 首都惑星からワープを重ねて到着した地球で、あるドーム都市を選び滞在し調査研究した。


 ドーム都市内はAI管理システムで制御され快適だった。住民はよそ者の私に親切だったし、どこか懐かしい、忘れてしまった「何か」を感じた。首都惑星とは明らかに違う。これは一体どうしたことか。

 ドーム都市自体は他の惑星にもあり、特に珍しいものではなかったのだが……。


 私はAIの力も借りて、現在の地球の状況を調べた。充実した日々だった。本当はドーム都市の外にも出たかったが、それはあまりにも無謀ということで断念した。


 滞在期間が終了し、必要なデータは得られた。あとは大学に戻ってレポートをまとめるだけだ。この忘れ去られた地球の状況が少しでも理解されればと思った。

 卒業論文の出来は上々で、私は無事大学を卒業しAIの選んだ仕事に就いた。そして時は流れた。


 私は今……再び「辺境方面地球行き」列車型宇宙船のチケットを手にした。

銀河の辺境地球! 私の心は歓喜に震えていた……。


 


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辺境方面地球行き 船越麻央 @funakoshimao

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