ヤンキー店員さんと私。

梅猫ハル

第1話

 「お客さん、自分が世界で一番不幸だとか思ってんだろ」



 とある食品スーパーにて。私は、疲れた顔でレジカウンターの前に立っていた。

 それは、店員にポイントカードを読み込んでもらった時に起きた。

「お客さん、自分が世界で一番不幸だとか思ってんだろ」

「…へ?」

カードをスキャンした男性店員が、いきなりぎろりと私を睨みつけるように言う。いや、実際睨んでいるわけではないのかもしれないけれど、この店の常連になっている私は、ちょっと目つきの悪いこの店員に見られるといつも睨まれているように感じてしまっていた。そして、金髪、耳にはたくさんのピアスを付けている彼は、質素な見た目の店員が多い中でやけに目立っていた。

「えっと…あの…?」

あまりに唐突で訳の分からない発言に首を傾げていると、店員はポイントカードを返し、途中になっていた商品のバーコードスキャンを再開した。

「あのなあ、俺だって最近財布落とすわ、通った車に水はねられるわ、飼い猫に顔引っかかれるわでもう散々なんだぞ」

「は、はい?」

 これは一体どういう状況なのだろう。というか、猫飼ってたのね…。

 様々な感情を心の中で整理しながら彼の手元を見ると、話しながらも商品はしっかりスキャンされていた。レジに並んでいる人はおらず、人もまばらな店内には、スキャナーのピッ、という機械音がやけに響く。

「いっつも浮かない顔しちゃってさー。まあ、何に悩まされてるかはあえて聞かないけど、俺がお客さんに言いたいのは、」

 最後の商品のスキャンが終わると、店員は静かに言った。

「今はただ“そういう時期”なだけってことだ。今をがむしゃらに頑張っていれば、いずれ日の目を見る時は必ず来る」

「はい…、ありがとう…ございます?」

戸惑い気味に笑うと、店員も歯を見せて笑った。まるで太陽みたいな、温かくて柔らかい表情だった。

 笑うとこんな顔になるのか。…いっつもこんな顔してればいいのに。

 照れくささから、心の中で思わず愚痴をこぼす。

「お会計が…円になります」

「じゃあ、これで」

お金を払い、レシートを渡された時、

「背中丸めて歩くと余計気が落ちるぞ。背筋伸ばして、しっかり前向いて歩け」

という言葉も添えられた。

「はいっ、ありがとうございました」

笑いながら礼を述べた後、私はぴんと背筋を伸ばして歩くのだった。

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