第3話 生活反応の外傷

 加害者殺しといえば法曹界に知らぬ者はいないとされる敏腕の検事だ。

 とにかく弁護人を無視して加害者だけに証言をさせる。弁護人が口を挿めば其処が痛点だとして畳み掛けるように質問攻めを繰り返す。更に弁護人が声を荒げて加害者を護ろうとしたらローリングソバットで弁護士の先生をノックアウトさえする。

 なかなか、新鮮で斬新な裁判だった。

 法廷でアクションシーンがあるとは。

 また裁判長もゴング代わりにカンカンカンカンと五月蝿くハンマーを鳴らす。

 馬鹿なのか。

 阿呆なのか。

 いや。

 司法試験に合格してるんだから頭は良いのだろうけれど。

 

 初公判、休廷時間。

 ボクはその加害者殺しと話をしていた。

 クタクタのスーツ。

 ヨレヨレのジャケット。

 銀縁メガネに。

 白髪の坊主頭。

 検察というか、見た目は校長先生とかに近い。


 「法廷に敵無しと評判の『加害者殺し』が随分と脂汗を垂らしてましたね?」

 「そりゃ脂汗で済んで儲けものさ。鼻血とか喀血が止まらなくなるかと思ったもんだよ」

 「この殺人事件は人体発火現象でしかありえない。火元というか、燃えるものがあの公園には存在していない。っすからね……。」

 「そうなれば事件ではなく事故だ。サムライ君は知っているだろうが、人体発火現象は奇跡的な可能性の蓄積ではあるが論理的に在り得ると証明されてるんだし」

 「でもそれは大気中に遠赤外線が通る鉱山や温泉地でなければ不可能な筈です。その辺の公園すよ?」

 「実は地中に大量のペターライトが埋まっていて遠赤外線が公園にブワァと出てたとかの可能性は無いのかい?」

 「それは探偵としてボクも調査はしましたけど、地中にペターライトなんか埋まってませんでした。当然、備長炭マニアが近所で大量の備長炭を熾して遊んでもいません」

 「どんなマニアなんだろうね、備長炭マニアって」


 知らん。

 だが、手詰まりだった。

 燃えるものが側に無いのもそうなのだが。

 “遺体が燃えた痕跡が無い”のである。

 野焼きすれば草は焼ける。

 灰は舞う。

 臭いもする。

 だが、それがない。

 被害者は全員。

 焼死だというのにだ。


 「犯人というか、被告人はオバケでした〜とかならないのかい?」

 「なるわけないでしょう。真面目にしてください」

 「被害者は全員が低温火傷をしていた。更に死因が焼死ってなるとねえ……。嫌にもなるんだよ。私、普通の裁判が専門だもん。ホラーとかミステリとかサスペンスとか大嫌いだ」

 「や、ボク等はホラーとかミステリとかサスペンスを相手にするのが仕事なんで……。」


 困っていたのだ。

 本当に。

 

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加害者殺しの人殺し殺し〜予告編〜 居石入魚 @oliishi-ilio

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