第5話 光る湖、それから月へ

 施設を出るとそこは湖が近くにある山の中で、コウモリがあたりを飛び回っていました。


 歩きながらライトは、コウモリたちが星の形や温度を日々記録していることや、回転する星からこぼれ落ちるカケラを集めていることを教えてくれましたが、黒猫の耳にはすべて入りきりませんでした。

 彼は話を聞いているときに、別のことを考えていたのです。


「……ねぇ、ライトさん」

「なんでしょう」

「ぼくは、とても素晴らしい魔女様の使い魔だった気がするんだ」


 額にコウモリが止まっても、黒猫は気にせず話し続けました。


「その人はセンスのいいデザイナーの魔女様で、ドレスを作るのが仕事なんだ。ぼくはそのお手伝いをするんだけど……、っていうか、してたと思うんだけど……。……たぶん、あんまり上手にできなかったんだと思う。……なんだか、怒鳴られていた記憶があるんだ」

「……ほう」

「だからもしかしたら、ぼくは……」


 黒猫はうなだれて、「魔女様に捨てられて、ここにいるのかも」と言いました。


「……サー、こちらをご覧いただけますでしょうか」

「なぁに?」


 言われるがままに、黒猫が顔を上げると──。


 ライトは普段より数段階強く、ランプを明るく照らしていました。そして彼の背には同じく金色に輝く月と、それを映し出す湖が広がっていました。


 暗色が広がる夜空に、ライトを中心として光の筋が放射状に飛び散っていて、黄金の円が何重にもできていました。


「思い出したくないことを思い出すよりも、私と美しい月夜を旅しませんか」


 彼が纏う光はあのとき見た星のように、目に刺さるほどに強烈でした。しかしそれでもやはり、黒猫はまぶたを閉じることができませんでした。

 ここで目をそらしてしまうなんて、そんなの惜しすぎることですから。


「……そうする!」


 二人はまた、山の中の道を歩き始めました。


「これからどこに行くの?」

「月に向かって走る黄金の列車が見えるでしょう。あれに乗って、天まで行きます」

「わぁ! すっごく楽しみ!」

「……ええ。どうか最期まで、お楽しみくださいませ」

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夜の旅 杏藤京子 @ap-cot

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