第21話 お誘い

「アル、これわかるかしら?」


 シャーロットが教科書を俺の机の上に乗せて、わからない箇所を指差した。


 最近、シャーロットのアプローチが増えている気がする。


 こんな美少女からアプローチを受けるのは嬉しいのだが、モルブランの突き刺すような目線が痛い。


 ……生きた心地がしないよ。


「シャーロ、モルブランが睨んでますよ?」

「え? お気になさらず。無視して構いませんわ。わたくしが誰と話そうがわたくしの勝手ですから」


 ……まあ、そうなんだが。でも、俺はそうじゃないんだよね。


 シャーロットはツンとした表情を見せる。


 シャーロットは、モルブランと婚約はしたくないらしい。


 その理由は、モルブランのアプローチが強引すぎるかららしい。


 さらにプレゼントは高級品ばかり。


 宰相の息子ということで、モルブランはお金を使い放題のようだ。


 もちろん、シャーロットへのプレゼントは自分で稼いだお金ではなく、父親から貰ったお金で購入している。


 シャーロットは心がこもっていない贈り物は嬉しくないとのこと。


 シャーロットはお菓子好きと知ると、モルブランは王国一の菓子職人を強引に引き抜き、シャーロットへのプレゼントの高級菓子を作らせたそうだ。


 さすがに、お菓子好きのシャーロットも引いたみたいだ。


 シャーロの気持ちは理解できる。同情する。

 

 が、あの目線を毎日浴びていたら胃に穴があくよ。


 自律神経を整えて気持ちを落ち着かせようと、俺は息を大きく吸って、ゆっくり吐いた。


「大きなため息なんて吐いて、どうかしましたか? 」


 ちょうど戻ってきたカリーナは、それを見逃さなかった。


「あ、まあ……、これは精神を落ち着かせるというか、なんというか……」


 俺は少しモルブランの方に目線を向ける。


「あ〜、そういうことですか。もの凄い形相ですものね。お気持ちお察しします」


 カリーナはそう言いなが、俺に柔らかい笑みを見せる。


 ……え? 何、その表情は?


「無自覚って、恐ろしいですわね」

「え、どういうことですか?」

「い、いえ、独り言ですわ。うふふ」


 カリーナは笑みを浮かべながら辺りを見渡す。

 周りの状況を気にしながら、カリーナはシャーロットに近づいた。


「シャーロット様、近々お茶会をいたしませんか?」

「お茶会ですか?」

「はい、アルが教室だと話しづらそうにしていますから、別の部屋で気兼ねなくお話ができる場をご用意したほうがよろしいかと思いまして」

「そうね。毎回あの顔を見るのは気が滅入るわよね」


 そう言いながら、シャーロットは俺の顔をじっと見る。


 俺はうんうんと首を縦に振って主張する。


 それを見たシャーロットは軽く息を吐いた。


「わかったわ。お茶会をしましょう。ここでは楽しい会話に水をさす方がおりますから」

「まあ、嬉しいですわ。ではいつにいたしましょうか?」

「そうね、次の休日でどうかしら。アルは何か予定はありまして?」

「え、俺は、特に予定はないです」

「では、次の休日にお茶会をいたしましょう。それで、場所は……」


 カリーナは少し頭を傾けて、お茶会の場所をどうしようか考えているようだ。


「それなら、わたくしの部屋でどうでしょう。邪魔者は入ってこられないと思いますから」

「えーと、それは俺が女子寮へ行くってことですか? 女子寮は男子禁制じゃないんですか?」


 貴族でそのような不届きものはいないとは思うが、女子寮は男子禁制だ。

 男子生徒が女子寮に侵入したことがバレれば、退学のうえに思い罪を背負わされる。


「それなら大丈夫ですわ。わたくしが迎えにいきますから。同伴者がいれば問題ありませんわ」

「決まりですわね。カリーナ、アルのお迎えをお願いしますわ」

「はい」


 カリーナの提案が通り、次の休みの日にお茶会を開催することが決まった。


 しかも、場所は男子禁制の女子寮……。


 決して、やましい思いなんてないぞ。

 そりゃあ、女子寮ってどんな空間なんだろう? って気にはなるが……。


「では、明後日の休日、シャーロット様のお部屋でお茶会ということで。よろしいかしら」

「ええ、構いませんわ」

「はい、わかりました」

「あと、お茶会にお菓子を一品ご用意してくださいね。美味しいお菓子を楽しみにしていますわ」

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