第19話 異世界で最初の和菓子

 シャーロットの表情が気になったが、それどころではない。

 下準備をしていかなければならない。


 まずはもち米を炊く。

 

 もち米を水洗いして、水を張った鍋に入れる。

 蓋をして、コンロの火を強火にした。


 続いて小豆も茹でていく。


 水洗いした小豆を鍋に入れ、小豆の上から手首くらいまでの量の水を入れる。

 こちらは蓋をせずに強火で沸騰させる。

 

 小豆をいれた鍋が沸騰して煮汁の中で小豆が踊り始めたら中火にする。

 さらに煮込んで蒸らしていると、もち米の鍋が沸騰してきた。


 火を弱めると、もち米を炊いている鍋からいい匂いが湯気と共にでてきた。


 ……ああ、懐かしい匂いだ。炊き上がる直前の匂いがたまらない。


 その匂いに釣られてか、周りの生徒たちが俺の方を凝視する。


「アル、米ってこのような香りがするものなのですか?」

「え? はい、こんな感じですよ。炊き方にコツがありますが」


 カリーナもこの匂いは初めてのようだ。


 豪商の家にもこの米は行き渡ってないということか。

 いや、そもそもあったとしても、美味しいお米の炊き方を知らないのかもしれない。


「今度、わたくしに、その米の炊き方を教えてもらえるかしら?」

「ええ、いいですよ」

「じゃあ、先行投資にわたくしのところから好きな食材をどうぞ」


 カリーナは微笑みながら食材が乗ったトレーを持ってきてくれた。

 トレーの中に苺やブルーベリー、オレンジが入っていた。

 その中から俺は苺を選ぶ。


 ……これで苺大福が作れるぞ!


「それだけでいいのですか?」

「はい、これで十分です。ありがとう、カリーナ」

「いいえ、どういたしまして。でも、あくまでも先行投資ですからね」


 カリーナは人差し指を立てて「先行投資」ということを強調した。


「アル、わたくしの材料もどうぞ」

「え、頂いてよろしいのですか?」


 俺とカリーナが話しているところに、シャーロットも食材を持ってきてくれた。


 なぜかシャーロットはカリーナを意識しているように見えるのは気のせいだろうか?


「はい。わたくしもアルがどのようなお菓子をお作りになるのか気になっていますから。僅かながらのエールですわ」

「ありがとう。遠慮なく使わせてもらうよ」


 俺はシャーロットからも苺をもらった。


 何だか本当に申し訳ない。


 しばらくするともち米が炊き上がったので、木べらで混ぜ合わせてさらに蒸す。

 小豆を分蒸したものから灰汁をとって水を足し、さらに小一時間弱火でコトコト煮る。


 まだまだ作業は続く。


 小豆を煮ている間、炊き上がったもち米をお餅にしていく。

 少し太めの木の棒でトントンと叩き、水をつけた片方の手で整えていく。

 

 まるでミニ餅つきをしているようだ。


 ……ああ、臼と杵を作って餅つきをするのもいいな。


 俺はつき終わったお餅を一口分ちぎって口の中に入れた。


「うんまあ~」


 味はつけていないが、お餅独特のほのかな甘みともちもち感。


 たまらない。


 ふと気づくと、俺はシャーロットとカリーナに睨まれていた。

 いや、睨まれているのは俺ではなく手に持っているお餅だ。


「あ、二人には出来上がったものを差し上げますから我慢してください」


 シャーロットとカリーナはコクリと頷いて納得してくれた。


 ……苺大福が出来たら二人はどんな反応をするんだろうな。


 お餅を大福サイズに切り分けていったら、餡子作りに集中する。


 煮込んだ小豆が指で摘んで簡単に潰れる状態になっていたので、ザルと綺麗な布を使って小豆を濾していった。


 した小豆と、水に砂糖を溶かしたものを加えて餡を練っていく。小豆の皮を除去していき、きめ細やかなこし餡が出来てきた。


 ……うん、この味だ。


 ちゃんと体が餡子作りを覚えていたので、前世で作っていた餡子と同等のものが出来上がった。


 最後は仕上げ、お餅に餡子を詰めて中に苺が入っているとわかるように包み込んだ。


 これで苺大福の完成だ!

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