第16話 理不尽な貴族

 入学式が終わると、オリエンテーションを行うため教室へ移動となる。


 王立製菓学院は三年制、クラスは実力ごとに分けられている。


 一学年百人、AからEクラスの五クラスに分けられている。俺はトップクラスのAクラスだ。


 学院では身分の差は考慮されない実力主義となっている。

 だが、貴族からの嫌がらせは少なからずある。

 特にモルブランの平民差別は酷い。モルブランは常に平民の生徒に対して威圧的な態度をとっている。


 講堂から教室へ移動しているとき、シャーロットやカリーナも近くにいる。

 順位が近いのだから当たり前と言えば当たり前だ。


 流石に俺から気軽に声をかけられなかったので、俺は無言のまま教室へ向かった。


 あと少しで教室というところで、急に俺の肩が掴まれた。


「おい、おまえ、誰と一緒に歩いているのだ!」


 俺を引き止めたのはモルブランだった。しかも、顔をかなり赤くしている。


「え? 誰とって、一人ですが?」

「何を言っている、隣にシャーロット王女がいらっしゃるではないか!」


 いらっしゃると言っても、目的地は同じだ。たまたま近くを歩いていただけで、それを一緒にいると認識されるとは……。


「モルブラン様、アルフレッド様も同じクラスですもの、近くにいらしても不思議ではないでしょう?」


 シャーロットが俺とモルブランの会話に割って入ってきてくれた。


「そうか、同じクラスか。では仕方ないな。おい、おまえ、アルフレッドといったな。あまり俺の婚約者に近づくな! いいな!」


 モルブランはシャーロットの言葉に納得したが、俺がシャーロットの近くにいるのが面白くないらしい。


 近づくなと言われても、順位が隣。そんなのは無理だ。理不尽だ。



 教室に入ると、席が階段状になっていた。

 部屋の形は黒板を中心にして扇型になっている。


 席順は入学試験の成績順になっていて、トップの俺は一番上の真ん中の席だった。

 席は一席ずつ独立しているので、誰かが席を立つたびに他の人が席を外す必要はない。


 ……さすが一番の席だ。


 席に着くと、俺は教室内を見渡した。


 全ての生徒を見下ろすことができるこの席は、権力欲がある生徒なら是が非でも手に入れたい場所なのだろうな。


「アルフレッドさん、これからよろしくお願いしますね」


 カリーナが俺の左隣の席に着席する。


「はい、よろしくお願いします」

「そうそう、クラスメートですもの、わたくしのことをカリーナと呼んでください」 

「うん、わかった。俺のことはアルでいいよ。いつも家族にそう呼ばれているから」

「そ、そう……。じゃぁアル、よろしくお願いしますね」


 ……うん? 俺、何か変なこと言ったかな? 


「あら、アルフレッド様。わたくしもそう呼ばせてもらってよろしいかしら?」


 ……え? シャーロットも俺のことを愛称で呼びたい? いやいやいや、あ、俺へならいいのか。


「あ、はい。呼びたいように呼んでください」

「ありがとう、アル。じゃあ、わたくしのことはシャーロとお呼びください」


 ……いやいやいや。


「えーと、王女様を愛称で呼ぶのは……」

「大丈夫です、わたくしが許可したのですもの。不敬罪にはなりませんわ」


 なぜかシャーロットの笑顔には逆らえない気がした。


「わかりました。シャーロ、よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ。よろしくお願いします」


 シャーロットは満足したという笑顔に変わった。


 王女様とフランクに会話をしても大丈夫なのだろうか? 自分の気持ちを落ち着かせるため、俺は隣にバレないように深く息を吸って、ゆっくり息を吐いた。


 ……でも、こんなのアイツは絶対に黙っていないだろう。


 恐る恐る左斜め下を見ると、モルブランが鋭い顔をして俺を睨んでいた。


 ……目から炎が出てない?


 不可抗力だ。別にモルブランの婚約者をとりたいわけじゃない。勘弁してよ……。


 結局、オリエンテーションが終わるまでモルブランに睨まれていた。


 ……生きた心地がしないよ。

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