第11話 入学試験①

 俺は試験会場で受付を済ませると、指定された教室へ向かった。


 教室にはかなりの人数が集まっていた。見渡すと貴族と平民がごちゃ混ぜになっている。服装でわかる。


 ……本当にこの学院は貴族と平民、分け隔てなく扱うのだな。


 教室の中を見渡してみたが、この教室には王女とモルブランたちはいなかった。トラブルの種は少ないことに越したことはない。


「静粛に、今から入学試験を執り行う」


 教師と思われる人たちが、ぞろぞろと教室に入ってくると教室内は静まり返る。

 静まったのを確認すると、教師たちは問題用紙と答案用紙を配り始めた。


「合図があるまで問題用紙は伏せたままでいるように」


 教師たちは一人ずつ問題用紙と答案用紙を配っていく。前世の学校のように前の人にまとめて渡して後ろに回させることはしないようだ。


「うむ、行き渡ったようだな。それでは始め!」


 問題用紙と答案用紙が行き渡ると、教壇に立っている一人の教師が合図とともに砂時計をひっくり返す。それと同時に紙を裏返す音が一斉に響き渡り、ペンの音がトントントンと不規則に鳴り始めた。


 ……うわぁ、試験って感じだな。懐かしいな。


 しかし、ひっくり返した問題用紙を見て俺は愕然とした。


 少ないお小遣いを使って必死に図書館に通い、勉強にと他店のお菓子を買ったりして勉強していたのを思い出すと俺の体からぷしゅーと湯気が出るように力が抜けてしまった。


 筆記試験で出てくる問題は、衛生管理や素材の種類、簡単な法規など基本的なことしか出題されていない。


 ……俺のお金、返してくれよ。


 俺の行動が挙動不審に見えたのか、教師が俺を睨むように見る。俺は慌てて試験に集中する。


 答案用紙を全て埋めて顔を上げると、砂時計はまだ半分も砂が落ちてはいなかった。


「君、どうしたのかね?」


 教師の一人が俺のところに近づいてくる。


「えーと、終わりました」

「まだ時間は残っているが、見直さなくていいのかね?」


 教師はそう言いながら俺の答案用紙を手に取り、覗き込むようにチェックをしていく。読み進めていくと教師の額から僅かな汗が流れた。


「うむ。時間までは教室から出られないので、大人しくしているように」

「はい、わかりました」


 俺が素直に返事をすると、教師は元の場所へ戻って行った。教師の反応からして筆記試験は問題なさそうだ。


◇◆◇


「そこまで!」


 砂時計の砂が落ちきると筆記試験は終了となり、受験生は一斉にペンを机に置く。


「では、前の席の者から答案用紙を提出していくように」


 教師の合図があると、一番前の受験生は立ち上がると教師たちが持っている木箱に答案用紙を入れていく。かなり効率が悪く、提出が完了するまでかなりの時間がかかった。


 ……これなら、できた人から回収でいいじゃない? この世界では効率というものは求められていないのだろうか?


「次は実技試験だ。調理室へ移動するように」


 教師が案内する前にすでに受験生たちは調理室へ向かい始めていた。


 よく見れば俺より何歳も年上の受験生もいる。何度も受けていれば試験の流れは覚えるのだろう。そういった人たちが先頭で流れを作っているようにも見えた。



 調理室に到着すると、壁一面の巨大な氷室と二十台のシンク付きの調理台が目に入った。


 前世で通っていた専門学校より大規模で、これほどまで設備を整えているとは。王国の本気度を感じる。


 俺は隣にある準備室へ入り、調理服に着替え衛生管理をする。全て整ってから調理室へ入っていった。そのままの服装であったり、衛生管理がしっかりしていなかったりした受験生は、調理室に入る前で止められる。

 入室を許可されなかった受験生はそのまま不合格となり、退場させられた。


 この世界では衛生管理というものが浸透していないのか、この時点で半分の受験生がいなくなっていた。

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