第2話 戦闘
「あ、ありえない」
少女こと、
「君の力はこの程度かい? もっと頑張ってよ」
「………」
男が”悪鬼”と戦っている。それもただの悪鬼ではなく”鬼武者”だ。普通は男が悪鬼とやり合うなんて不可能だ。
力がない。速さもない。体も弱い。魔法などの超常現象を使うこともできない。
なのに目の前の男はあの”鬼武者”と互角に戦っている。槍を躱して、蹴りを足で受け止め、拳を掴んでいる。
「……強い」
それに男の方の動きが速くなった? いや、違う。あれは、
「動きを真似ている?」
そう、渚が言ったように誠は大抵のことはなんでも真似ることが出来るのだ。相手の動きを観察してその動きを一度見ただけで自分の物にすることが出来る。
「…退屈だな」
「……」
誠は戦いながら退屈をしていた。確かにこの鎧武者は強い。
けど僕の退屈を壊せるほどではない。
「……」
鬼武者は誠に対して槍で薙ぎ払いをする。
「だから、その動きはもう見たよ」
けれど意味がなかった。
誠はその薙ぎ払いに対してしゃがみ、そのまま鬼武者の顎を下から蹴り抜いた。
その蹴りは鎧武者の顎にまともに当たった。
「へぇ。頑丈だね」
誠は少し意外だった。今のは首が千切れてもおかしくないくらいの力で蹴ったのに、鎧武者は少しよろけた程度だった。
「はぁ、君じゃ僕の退屈は壊せそうにないね」
「……」
鬼武者は何も答えない。
「ん?」
まず鬼武者の違和感に気づいたのは対峙していた誠だった。そして後から渚も鬼武者の変化に気づいた。
「……」
鬼武者の緑色の皮膚が赤く染まり、全身の筋肉が盛り上がっていた。
「へぇ! まだ本気じゃなかったってことか」
誠は喜んでいた。こいつにはまだ上があったこと。そしてこの鎧武者から感じる圧迫感、プレッシャーは今までとは明らかに違うことに。
「……」
次の瞬間。誠の視界から鬼武者が消えた。
「ぐっ!?」
気づいた時には鬼武者の槍が誠の左の肩を貫いていた。
そして誠は貫かれた肩を抑えながら気づく。
「なるほど。単純な話だ。君が速すぎて僕が見えてなかっただけか」
誠の推理は正しい。別に鬼武者は本当に消えた訳ではない。
ただ、速すぎた。誠の動体視力を鬼武者の速度が超えただけだ。
「うっ!?」
誠の左肩から血が吹き出ている。痛みが、心臓が脈打つ度に全身に走る。
想定外。この鬼武者は誠の予想を大きく上回っていた。
「わ、私が、私のせいで」
渚は自分のことを責めた。あの時止めておけばこんなことにはならなかった。無理にでも止めるべきだった。
あの人は鬼武者に殺される。それは確信に近いものだった。
そんな絶望的な状況で。
「ふ、ふふ」
「え?」
「あははははは!」
誠は笑った。
「あの時に! あの落書きに触れて良かった! 本当に良かった!!」
誠は肩を貫かれてなお、空を見上げて大声で笑う。
「やっと! やっと僕の退屈が死んだ! ありがとう! 君が壊してくれたんだ!!」
誠は己の肩を貫いた鬼武者に感謝を述べる。自分の退屈を殺してくれた者に深い深い感謝を。
自分が初めて本気を出しても良いかも知れない。そんな相手と出合わせくれた魔法陣に、この世界に感謝をした。
「さぁ、ここからは僕も全力で相手をしよう」
「………」
そして2人は構えた。
誠の左肩は貫かれて動かない。一方鬼武者は弱っているどころか更に強くなっている。
誰が見てももう誠には勝ち目などなかった。
「………」
そして鬼武者は目の前の男にトドメを刺す為に、さっきと同じ攻撃を繰り返す。
鬼武者の攻撃が誠の喉を捉える。
「さっきも、言ったよ? もう見たって」
渚は信じられない物を見た。確かにあの鬼武者は消えた。
それは鬼武者の速度が私の動体視力を上回ったから、女の私でさえ見えなかったんだから、男のあの人に見える訳がない。
絶対に殺される。
そう思った時には、鬼武者の槍を男が右手で掴んでいた。
男が顔を僅かにずらした所に槍が来て、その槍を確かに掴んでいる。
「…….」
「!!……あはは! 面白い!」
誠は右手で槍を掴んだものの、鬼武者はそのまま槍を振って誠を吹き飛ばす。
誠は子供のようにはしゃいでいた。とても無邪気に。
しかし、
「っ……ごめんよ。もう時間もないし、決着をつけようか」
誠は肩の出血と痛みで自分がもう少しで動けなくなることを知る。
故に次の一撃で決着をつけることにした。
「さぁ、行くよ!」
「……」
誠は初めて自分から仕掛けた。このまま時間をかけても自分が不利になるだけだと分かっていたから。
向かって来た誠に対して鬼武者はトドメの一撃、槍を誠の頭に目掛けて放つ。
けれど。
「……!!」
鬼武者は初めて感情のような物を見せた。
それは驚き。
自分が槍を放つ瞬間、足元にあった死体につまずき目標から大きくずれた。
そんなことは本来なら絶対にありえないことだ。
「あ〜。残念だったね」
誠は白々しく言った。その顔はこうなることが分かっているかのような顔をしていた。
そして誠は鬼武者の首を掴んだ。
誠は笑いながら鬼武者に言った。
「気に病むことはない。だって君は」
「
その言葉を言い終わると誠は、鬼武者の首を本気で握ってへし折った。
「はぁ〜。楽しかったぁ」
誠が手を放すと鬼武者はそのままバタリと地面に倒れ込む。
誠は鬼武者が死んだことを確認すると、自分もその場で大の字に倒れた。
倒れ込んでから近くにいた少女のことを思い出した。
そしてムクリと起き上がって。
「あぁ、悪いんだけど助けて貰って良いかな? もう体が動かなくてね」
「え? あ、分かりました」
渚の思考はもう停止していた。今日はありえないことが起きすぎてもう何も考えたくないのだ。
そうして、渚が仲間を呼びに行くのを見て誠は再び大の字に倒れて。
「ここは楽しいなぁ、傷が治ったらまた来よう」
誠は満足そうな顔で目を閉じた。
日本から現代ファンタジーの世界へ クククランダ @kukukuranda
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