第4話「最後の抵抗と無情な現実」

奏は複雑な心境にならざるを得なかった。

司はたしかに時折碌でもないやらかしをするにはするが、愚かではない。

本気で叩き斬ろうとしたとは言え、その辺は理解してるつもりだ。

しかし、だ。


(内容が内容なんだよな……。)

それではい、そうですか。と頷ける訳もない。

取り敢えず、回避できるなら回避するに越したことはない。


「因みに、その学校は?」

「……隣町の聖皇の園なんだ。」

「あらゆる意味で最悪じゃねえか……。」


聖皇女学院、通称「聖皇の園」は知らない者はいないと言われるような場所だ。

幼稚園から高校まで一貫校、寮から何まで広大な敷地に全て併設された純粋培養のお嬢様しかいないような聖域だ。

少なくとも、というより女子校という時点で男子が土足で踏み入れて良いような場所ではない。


ソファーにいた流人も引き攣った笑顔でこちらを見ている。


「……2つ目、何故今回の話に?」

「聖皇の園と別の場所に共学校を作ろうという話になってね…、信頼できる生徒を一人テスト生として、貸し出してもらえないか、と。」


司も司で、本当に申し訳無さそうな顔で説明をしてくれる。

司が悪い訳ではないが、それはそれとして、あまりにもぶっ飛んだ要求に奏も奏で頭が痛くて仕方なかった。


「……3つ目、他の学校には要請出来なかったんですか?」

「全滅だったらしい。一応、他校にも要請して、選抜されたメンバーを向こうの教師と生徒会長がお忍びで大丈夫か視察したらしいが、駄目だったようだ。ここには最後の頼みの綱で話が周ってきたらしい。」


これには圭一が答え、奏が「どうして?」と聞くと


「ここの人間は基本的にほぼ全員常識を併せ持った上で、問題児とクセ者揃いだから。」


横で聞いていた流人は「あー……」と、納得した、ついでに自分も心当たりがあると言うような微妙な顔をした。

圭一も圭一だが、流人も流人で何かしらトラブルに巻き込まれる。

本人は全力で回避しようとするのだが、面白いほどトラブルに巻き込まれる。

そういう人間がたくさん、ここにはいる。

加えて、数えればキリが無いがよく今まで苦情が来なかったなと聞きたくなるほどの厄介な人物の巣窟なのだ、江崎高校という場所は。


「4つ目、俺以外に候補は?」


この言葉に司は悲しそうな顔で目を瞑りながら無言で首を振っただけだった。


「全員、断ってたよ。学校1の大馬鹿者とか言われてるコウタですら、『いや、普通に考えてそんなの1日でも地獄だから嫌だよ。』って言って秒で断ってたよ。」

「それにね、向こうの先生と生徒会長からは、色々候補があった中で、是非君に、とご指名があってね。という訳で…、すまないんだが……。」

「はぁーーーーーーーー……………」


本日どころか、ここ最近で一番大きな溜め息が出てきた。

つまり、もう無理なのだろう。


本当に、どうしてこうなった………。

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