神楽坂悠月

 新学期初日という今日は授業も特になかったが、怪我で休んでいたこともありその手続き等で蒲生先生に職員室の方に呼ばれていた。

 なかなかにめんどくさかったが何とか手続きの方も終わって職員室を後にした。


「さて、これからどうするかなー」


 早い早い放課後の予定は特に何もなかったのでどうするか考えながら歩いていた。

 すると反対側から見知った顔の人物が歩いてきた。


「あら?天哉たかや?」


「おぉ、悠月ゆづき


 反対側から歩いてきた黒髪ロングのザ清楚みたいな女子生徒は神楽坂悠月かぐらざかゆづき。彼女とは親同士のつてでの知り合いである。よく小さい頃とかは遊んでた。

 クラスは悠月は特進Sクラスという学園のエリート揃いのクラスにいるため会うと会うことはほとんどないが今日はたまたま会った。


「怪我はもう大丈夫なの?」


「あぁ、このとおり。後遺症は多少あるけど…」


 俺は自分の膝を見てそういった。


「そう…。膝はダメだったみたいわね」


 哀しそうに悠月は言った。悠月は入院中は2回くらいお見舞いに来てくれていた。と言ってもそんなに話すようなことなかったからすぐに帰ってしまったが。

 またこうして同じ学校で会えたわけである。


「まぁ生きてただけで儲けもんよ」


「本当にそうだわ…。あなたが大怪我負ったって聞いた時私は……」


 悠月は両手に抱えるように持っていた資料をギュッと強く抱きしめてそう言った。


「ごめんよ悠月。心配かけて」


「全くよ。本当貴方は昔から…。っ…!」


 そこまで言いかけた時彼女は俺の顔から目線を外して俺の後ろ方に目線を移して止まった。

 急なことでびっくりして俺も彼女の目線の方へと振り返った。

 しかしそこには誰かいたわけでもなくただの学校の長い廊下が広がっているだけであった。


「どうしたんだ悠月?なんかいたのか?」


「あぁ、いや。なんでもないわ。そういえば貴方らしいけどどうするの?」


「え?誰から聞いたんだそのこと?まぁ、バドミントンはもう膝的に厳しいから帰宅部かなー」


 悠月がどこから俺が部活を辞めるということを聞いたのかは知らないが先程真由理や銀仁朗にも言ったように帰宅部になるしかないだろう思った。別に文化系の部活とか入ろうなどとも思わないし。


「だったら生徒会に入らない?」


 俺のその言葉に悠月は少し嬉しそうな顔をして提案してくる。ちなみに悠月は生徒会執行部の役員である。

 そういえば今年の生徒会って歴代初の全役員女子だったような。


「いや、ごめんやっぱダメ」


「え?ななんだよ。俺何も言ってねぇよ?」


「ごめん今のは私の言葉は忘れて。うん。絶対ダメ」


「あ、あぁ…。はい…」


 入るって誘って速攻でダメだなんてなんか忙しいやつだな。こっちとしても誘われたところで入る気はサラサラなかったが。

 気まづくなってきたしなんか話題でも変えてみるか。


「悠月そういえば髪伸びたなー」


 前の彼女はもう少し短かったというかショートだったが今ではサラサラの黒髪ロングになっていた。まぁ俺の好きなタイプ的にはロングなんだけど。


「これ?ちょっと伸ばそうと思って…。どう?」


「あぁ、似合ってると思うぞ?悠月髪綺麗だし」


 俺がそういうと彼女は顔を赤く染めて照れていた。女子の容姿を褒めることは大事だって母ちゃん言ってたしな。


「良かった…頑張って伸ばして……」


「ん?なんか言った?」


 ボソボソ言っててよく聞き取れなかった。


「んん。なんでもない。私少し用事思い出したから、またね?」


「あぁ。またな」


 俺と悠月はそうして別れた。

 悠月は学園では浅倉さんに次ぐスターとも言える人物である。容姿は先程言ったようにザ清楚で綺麗。オマケにむちゃくちゃ頭がいい。さすが神楽坂グループ総帥の娘と言うべきか。

 ただ特進Sクラスということもあり、一般生徒がとても近づけるような存在では無いため人気というところでは浅倉さんには及ばない。

 あと第一にあいつ人付き合いそこまで上手いタイプでは無いし。

 何はともあれこの学園は美人が多いということである。そんなくだらないこと考えつつ、家に帰ることにした。







 嬉しい嬉しい嬉しい。私の髪天哉に褒められた。良かった。頑張って伸ばしたかいがあった。

 それに久しぶりに天哉とああやって話せたことに気分は最高に満たされていた。

 私は天哉のことが好きで好きでたまらないのだ。幼い頃に父親に連れられて天哉とはじめてあった時から一目惚れだった。

 私はあまり話すのが得意なタイプではないから天哉を前にすると言葉がどうも言葉が少なくなってしまう。本当はもっともっと会話をしたかったが、どうしてもやらなければならない用事があった。

 先程天哉と会話をしていた時、あの女が視界に入ってきた。とても目障りだった。

 私と天哉の空間を邪魔するその視線。不愉快だ。

 そもそもあいつのせいで天哉はあんな目にあったのである。今更なんだというのか。


「浅倉さん」


「え、あっ。か、神楽坂さん?」


 私から逃げるように去っていったこの女。見てるだけで本当に腹が立つ。何が学園のアイドルだ。私の大好きな人をあんな目にあわせておいて、本当に許せない。


「さっき天哉…。正木くんの方を見ていたけれど何かしら?」


「いや、あのね…その…」


 イライラする。分かりきっている。天哉に近づこうとする雌猫の考えることなど。


「どうしたの?何か用があったんじゃないの?」


「じ、実は正木くんに謝りたくて…。あとお礼も…」


 何を今更。1度たりともお見舞いにも来なかった癖に。私は天哉と直接あったこと自体は2回ほどだがいつも欠かさずに来ていた。

 様子を見て看護師の人に経過を聞いたりして。そもそもこの女がちゃんと周りを見ておけばこんなことにはならなかった。天哉は大怪我を負うこともなかったし。膝を壊して部活辞めるなんてこともなかった。

 私はこの女が本当に許せない。


「今更何を謝るの?遅すぎない?」


「いや、本当はすぐに謝ろうと思ったんだけど。どう謝っていいか分からなくて…」



 一体この女は何を言ってるのか。私のせいで大怪我させてごめんなさい。だろう。悪いと思ってないのだこの女は。

 私はなんでこんな女を天哉が助けたのか分からない。自分勝手な上っ面だけ人気な女なんか。



「天哉に近づかないで」


「え?」


「聞こえなかった?天哉に近づかないでって言ってるの」


 もう興奮して、正木くんと他人との時に言う時の呼び方などすることも忘れていた。


「ど、どうして神楽坂さんにそんなこと言われないといけないの?」


「なんでもいいでしょ…。私は天哉とは昔から付き合いなの。彼には幸せな生活を送って欲しいのよ」


 あなたが嫌い。と言いたかったが寸前で理性が働いて言うのをやめた。ただ天哉に彼女を近づけたくなかった。


「つっっ!!!」


 浅倉さんは私から逃げるように去っていった。その時に眼に涙を浮かべているように見えた。

 だからなんだという話だが。私には学園のアイドルが、好きな人の人生をめちゃくちゃにした悪女にしか見えていない。




 私には天哉だけいればいい……。






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