4

美玲が眠って30分程してからそろそろ寝ようと美玲の顔を覗き込む。俺の鎖骨の辺りに顔をつけて寝息を立てて眠っている。安心しきったその寝顔が愛しくて胸がギュッとなる。



「美玲。」



声をかけても「ん…」と唸るだけで目を覚さないので、出来心でその唇をついばむ。やがて美玲の方も無意識なのかそれに応え始めるので、つい舌を捩じ込んでからしまったと思った。



「ぅ、んっ…。」



美玲の唇から吐息が漏れてきて慌てて唇を離す。これ以上は俺がヤバい。目を開けると美玲の目も開いて、至近距離で目が合う。



「起きた? 寝よ。」



俺の理性が切れる前に、早く。そんな気持ちを込めて言うもこういう時に限って美玲は察しが悪い。頬に両手が伸びてきて顔を引き寄せられる。そうされると俺は拒めなくてその唇に吸い寄せられてしまう。目を閉じる直前に見えた妖艶な笑み。そして気付く。これ、わざとだ。



「み、れ…。」



綺麗にネイルが施された小さな手に優しく顔を固定されてキスから逃れられない。無理、理性切れる。好きな女にこんな風にされて大丈夫な忍耐は持ち合わせていない。けれど肝心の美玲は生理中だ。どういうつもりなんだ。変な汗が出てくる。本当は嫌だが力づくで退けよう、そう思った瞬間だった。下半身を撫でられ、脳まで一気に痺れが走る。



「!?」



驚いて目を開いた瞬間やっと唇が離れる。



「美玲っ…。ちょっ。」



困惑する俺を他所に、俺の足の間に割り込んだ美玲が膝立ちになって俺を見下ろす。濡れた唇がまた妖艶でそれに見惚れそうになると、また下半身を撫でられる。とっくに主張を強めていた下半身の主張がさらに強まる。



「何、してっ。」

「健くん、溜まってそうだから…。」



そう言って俺の頬や首に口付けながら、今度は形を確かめるように下から上へと半ば掴むように撫で上げられる。



「待てっ、無理…!」

「何が無理?」

「何っ、て…!」



何だこれ。焼き切れそうな理性を保っているからとか、好きな女だからとか、そういうんじゃない。めちゃくちゃ上手い。唇が触れるのも気持ち良くて、さらに唇が離れる際のリップ音にダメ押しされる。何よりヤバいのが手つきだ。どこをどう触れば男が悦ぶのか分かっている。

どこで仕込まれたのか知らないが、男が10年切れなかったというのは伊達じゃないということか。



「美玲…!」



必死に名前を呼ぶと漸く美玲は手を止めた。



「止めろっ…。」



この先ができないくせに、いい性格だ。すっかり荒くなった呼吸を落ち着けながら言うと、美玲は濡れた唇で弧を描く。



「手と口でしてあげようかと思って…。」

「っ…。」

「嫌?」



マジか。あまりの誘惑の強さにソファの背もたれに頭を乗せ、片手で顔を隠して大きな溜め息を吐く。でも別に、俺はただ欲求を満たしたくて美玲とこうして会っているわけではないのだ。俺は美玲に向き直るとその体を抱き寄せた。



「嫌。俺だけなんて無理。それに美玲の体が辛いときにそんなことしなくていいから。」

「健くん…。」

「でもその…嫌じゃなければ次の機会に…。」



口篭ってそう言うと美玲は可笑しそうに笑った。



「うん。」



美玲はいつものように頬に手を添えて、反対の頬に口付けた。何この余裕。未だにすぐ固まるくせに、自分からは平気なのかよ。魔性すぎる。俺はどうしたってこの人に振り回されるんだ。



「…寝る!」

「うん。」



ベッドに入るとしっかりと美玲を抱え込む。美玲の匂いや柔らかさがまだ主張を続ける下半身に毒だが、それ以上に美玲が愛しくてとても手放せない。



「健くん…。」

「ん。」

「ありがとう…。」



何がと訊こうとしたときには美玲はすでに夢の中に旅立っていた。そういえば美玲はもうとっくに限界を迎えていたんだった。

こうして腕の中に美玲を抱いていられるだけでいい。そう自分に言い聞かせていたのにやはり本心は違うところにあって、どんどん主張を強めてくる。どんどん欲深くなっていく。

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