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「……。」
よりにもよって、そうきたか。しかも美玲の方から。昨日のガチガチに固まっていたあれは演技なのか? だとしたら天才すぎる。
「厳密には、ソフレ…? 添い寝フレンドでいいんですけど、えっと」
などと今更慌て出す。どうしたもんか。
「私今は彼氏いらないんですけど、でも人肌恋しくなる時があるというか…。あ、黒田さん彼女いませんよね…!? あれ、昨日訊いたっけ…。」
こりゃダメだ。撃沈である。……とはいえ、失恋まで確定したわけではない。苦笑しながら美玲を抱き締めると、美玲の方からも腕を回してくる。
「彼女はいません。一応歓迎会でお互い確認済みです。」
「す、すみません…。」
腕の中で美玲が少しシュンとしたのが分かった。それがまた可愛くて少し笑ってしまったのだが、そこまで興味を持たれていないのは正直悲しい。
「ソフレでもセフレでもなりますけど、条件出してもいいですか。」
「? 応えられることであれば…。」
不思議そうに目を瞬かせる美玲の目をしっかりと見つめて言う。
「まず、お互いタメ口でいいですか。」
「え、はい。」
そんなことかと拍子抜けしながら了承してくれたのが手に取るように分かる。
「次。連絡先教えてください。」
「はい。」
「次。名前で呼んでいいですか。」
「プライベートのときであれば…。」
「俺も名前で呼んで。」
最後のは条件というより、もはやただのお願いだ。抱き締めた美玲の肩に額をつけるとそのまま返事を待つ。
「えっと、健、くん…?」
そう呼ばれればもう満足である。
「ん。」
そのまま動かない俺の頭を撫で始めるものだから、いよいよ顔を上げられない。やばい。彼女との違いってなんだ。もうこれ彼女でいいだろ。俺は顔を上げられないまま美玲を質問攻めにした。
「確認なんだけど。」
「はい。」
「好きなときにハグしていいってこと?」
「プライベートなら…。」
「キスも?」
「はい…。」
「その先も?」
「せ、生理じゃなければ…。」
「さすがにそのときはソフレの方で…。」
マジで彼女との違いってなんだ。
「なんで彼氏じゃなくてソフレ?」
つい調子に乗ってストレートに訊いてしまった。さすがにヤバいと思って慌てて顔を上げると、困ったように笑った美玲と目が合った。マジでヤバい。よくある面倒臭がられる流れだ。焦る俺とは裏腹に美玲は穏やかに言った。
「女性からこんなこと言うのおかしいって分かってるんですけど、私もそういうタイプじゃないし…。」
「いや、まぁ…大抵は男から言いそうなもんだけど…。」
「私、フリーになったの10年ぶりくらいなんです。」
急にドヤ顔をするものだから呆気に取られてしまう。というか10年ぶりって…は? 18歳ぶり?
「バツとかはないですよ。ありがたいことに彼氏が切れなくて。」
「すご…。」
「フリーになったら開放感がすごくて! だから独り身を満喫中なので、彼氏はいらないんです。」
そういうことか。だがそれだけの理由なら、美玲を振り向かせればいい話じゃないか。俄然やる気がわいてきたが、そこをへし折るのが美玲である。
「結婚願望もなくなっちゃった今となっては、恋愛は面倒臭くて。」
これは、想像より遥かに手強そうだ。
「そういうわけなので、プライベートもお願いします。」
そう笑う美玲はもう通常運転だ。マジで昨日の夜の美玲はどこにいった。本当に演技じゃないよな? もはや怖い。惚れた段階で大物だとは思っていたが、俺は思っていたよりもとんでもない女に惚れたようだ。だがそれでやっぱり止めますとなれないくらいにはズブズブに惚れてしまったのだから仕方がない。
「こちらこそ。」
そう笑って唇を寄せると一瞬美玲の目が泳いで、すぐにキツく瞼が閉じられ体が強張った。……なんだ。昨晩の美玲もここにいるじゃないか。そんな当たり前のことに安心して、その途端に欲望がわいてきて早速避妊具を一つ消費した。
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