第36話 顕乗とドライブ

「そういえば顕乗けんじょうさんは、どうしてここにいたんですか?」


 由佳ゆかはふと疑問に思って尋ねてみた。


「ああ。ほら。イベントの荷物を取りに来たんだよ。貴重な荷物だからワンフィールドで大切に保管してたんだ」


「そうだったんですね。顕乗さん、今年はどんなイベントをするんですか?」


 そう訊かれると顕乗は得意満面になった。


「ふっふっふっ。実はみんなを驚かせたくてね。誰にもイベントの内容はまだ秘密なんだ」


 確かに顕乗のイベント内容は夏祭りの実行委員である由佳たちにも知らされていなかった。

 由佳はイベントの内容がとても気になったが、自信満々の顕乗の様子を見て、どんなイベントなのか、ますます楽しみになった。


「ところで由佳ちゃんは今も毎日、神社にお参りしてるの?」


 急に話題を振られたが、由佳は「はい。毎朝ちゃんとお参りしています」と返事をした。


「…そっか。そうだよね。由佳ちゃんは、えらいね。とても殊勝なことだと思うよ」


 そういう顕乗の表情は、少しトーンが落ちて、曇ったように由佳は感じた。


「今日は苗蘇神社びょうそじんじゃも人がいっぱいだったでしょ?」


 顕乗の表情の陰りが気になったが、由佳は「そうですね」と相槌返事をした。


「みんなふだんはお参りにこないのに、こういうイベントの時だけお参りに来るんだよね」


「え? …あ、そ、そうですね」


 顕乗の言葉に、皮肉や冗談を通り越して、本当に腹立たしく思っているような憤りが感じられたので由佳は少し驚いた。


「毎日ちゃんとお参りしている由佳ちゃんからしたら、こんな時だけお参りに来る「にわか参拝客」って嫌だったりしない?」


 そう顕乗に言われて、由佳は一瞬ドキリとした。

 確かに先刻、自分だけの大切な場所を、他人に踏み荒らされているような、嫌な感覚を覚えたことが、記憶に新しかったからだ。


「そうですね。正直に言うと、もっと皆さんには神社へ来て欲しいと思います」


 その由佳の返事に顕乗は「そうだよね」と満足そうだった。


「で、でも! お参りの仕方は人それぞれだとも思いますっ。

 私も高校受験の合格祈願に、有名な学問の神様の神社に、今まで一度も行ったことがなかったのに、お参りに行きました。

 毎日あの神社にお参りをしている人からしたら、私も受験のときだけ参拝に来た「にわか参拝客」だったと思います」


「なるほどね。うーん…。そっか。確かにそうだね」


「それに狗巻いぬまき───じゃなくて、誰かが言ってました。神様は私たちの声を一言も漏らさず聞き届けてくださっているって。それは神社にお参りにいかなくても、どこにいても、私たちが神様に対して思ったこと、願ったこと、話したことはすべて聞き届けて下さっているって」


 由佳のその話に、顕乗は頭をポリポリと搔きながら「え~っと……そうかなぁ? そうなのかなぁ…?」と半信半疑といった様子だった。


「でもみんな神様の本当の意味も知らずに拝んだりしてるけどね」


「え? それはどういうことでしょう?」


「例えば苗蘇神社だけど、由佳ちゃんはあそこに祀られている神様がどんな神様なのか知ってる?」


「えっと…。苗蘇神社は元々は病気や疽そを祓はらう信仰の対象として人々が祈りを捧げたのが始まりで、病気が平癒へいゆし、新たな「なえ」が芽吹き、が取り除かれ「よみがえる」として、五穀豊穣と健康長寿の神様だと───」


「確かに神社の説明にはそう書いてあるよね」


「は、はい…」


 神社の説明の為に、御社の前には看板が掲げられていたが、そこには確かにそういった説明が記されていた。

 その為、由佳は苗蘇神社の神様は、そういう神様であると信じていた。


「あの看板に書いてあることなんて、大嘘だよ」


「───っ?! え…っ?! う、うそなんですか…っ!?」


 由佳は衝撃的だった。


「そうだよ。あんなの、後からこじつけた「でっち上げ」さ」


「で、でっち上げ……っ!?」


「そうだよ。でっち上げだよ。

 いいかい、由佳ちゃん。苗蘇神社はね。元々この辺り一帯を支配していた渡来人とらいじんの「悪党集団あくとうしゅうだん」だったんだよ」



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私の小説を読んでいただきまして、本当にありがとうございました。

(⋆ᵕᴗᵕ⋆)


今回のお話はどうでしたでしょうか?

ちょっと「悪党」というワイルドな名前をだしてみました♪


興味を持っていただけたのなら幸いです୧(˃◡˂)୨

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