第9話 貴船 由佳は私です

「い、今、声が聞こえたような気がしましたが、気のせいですかね……?」


 するともう一度声が聞こえた。


『気のせいじゃないニャ。キミに話しかけたニャ』


 気のせいではなく、本当に自分に話しかけられていた事実に由佳ゆかはとても驚いたが、ふだんから神様が≪視える≫など、特異な事に慣れている由佳は、こうした驚くべき出来事にもあまり動じず、事実を受け入れることができた。


『もう一度聞くが、キミはいつもお参りに来てくれている娘さんだニャ?』


「は、はい。そうです。あの、あなたはどなた様でしょうか?」


 由佳は恐る恐る尋ねた。


『この神社の神だニャ』


「やっぱり」


 由佳はひょっとしたらそうではないかと思い始めていた。


「いつも御社おやしろの上で丸まってお休みになられている猫のお姿の神様ですよね?]


『そうだニャ』


「今朝もお姿をお見かけしました。でも、その時と随分様子が違いますね。何と言いますか、とても大きくなられましたね」


『そうなのニャ。さっきお賽銭を入れられたので大きくなってしまったのニャ』


「お賽銭……? ですか?」


 どういうことだろうと由佳は思った。


『そうニャ。お賽銭ニャ。しかも1万円のお賽銭ニャ』


「い、1万円!?」


 由佳は金額の大きさに驚いた。


「そ、それは大金ですね」


『キミは、神は参拝客が多いと姿が大きくなることをしっているニャ?』


「は、はい。そのようだと察していました」


『寄せられる願いや奉納品が多くても神は力が強くなり、姿が大きくなるニャ』


「そうなんですね。でも1万円でこんなにも大きくなられるんですね」


『当たり前ニャ。1万円は大金ニャ。キミは1万円をお賽銭箱に入れることができるかニャ?』


 由佳は即座に「無理です!」とブンブンと首を振った。


 由佳は毎朝のお参りでお賽銭を納めていたが、それはほんの小銭程度だった。

 初詣など、特別なお参りのときは500円を納めていたが、それは年に1回あるかないかの大奮発で、そんな大きな節目でも、500円を納めるのはかなり勇気がいる行いだった。そして高校受験の合格祈願のときでも1000円を納めるのが限界だった。因みに、お札をお賽銭箱に入れたのは、後にも先にもこの1回きりだった。


 そんな由佳にとって、1万円をお賽銭箱に入れるなんて、並大抵の勇気がないと無理であるということは容易に想像できた。そして、それ程の勇気が納められたら、確かに神様もこれくらい大きくなるかもしれないと、納得をし始めた。


『ここ数十年、こんなお賽銭はなかったので油断してしまっていたニャ。急に大きくなってしまって身動きがとれないニャ。これではお賽銭と一緒に言われた願い事を叶えることができないニャ』


「それは困りましたね……。因みに1万円の願い事って、どんなお願いだったんですか?」


 自分は高校受験の合格祈願でも1000円である。1万円の願い事とはどんなものなのか由佳はとても興味を覚えた。


 神様が助けてくれるなら特別に教えてあげるニャと仰おっしゃったので、由佳は神様をお助けすることを約束して、その願い事を聞いた。


『おなじくらすのきふねゆかに、じぶんのおもいがとどきますように。

 という願い事だったニャ』


 それを聞いて由佳は絶句した。


「え…?」


『ん? どうかしたかニャ?』


「あ、あの、神様……」


『なんだニャ?』


「その貴船 由佳きふね ゆかって、私です」




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ここまで読み進めていただきまして本当にありがとうございます。

( ᵕᴗᵕ )

次話で1章は完結し、2章に突入致します♪

次は17話でまた事件が発生し、20話で凄い秘密が明らかになります。

ストーリーのギアがもう1段階アップする予定でおりますので、楽しみにしていただけますと幸いです。

引き続き、皆様に「面白い!」と思っていただけるよう頑張ります♪

( *˙ω˙*)و グッ!

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