忘れられないそこへもう一度

さいとう みさき

過去との対面、そして私は……

 これはいつかの記憶だ。

 私をあの場所へ連れて行ってくれた列車が、今目の前で停車している。


 今を生きる私にとって、過ぎ去った日々は文字通り過去でしかない。


 なのに、戻りたいと思った。もう一度あの場所に行きたいと思ってしまった。

 思うやいなや、無意識に踏み出した一歩が、私をあの場所へ連れて行く。


 そして運命の列車に乗る。

 もう一度あの場所へ行くために。


 過去の凄惨な記憶が頭をめぐり、私は目的の駅へと着く。

 ここへ来るのは何年ぶりだろう。

 ホームを降り、改札を過ぎる頃にはあの頃の自分を走馬灯のように思い出す。


 若かった。

 それは事実で、今の私と言う存在を形成する土台でもあった。

 駅を出て徒歩数分、街並みはこの数年で変わってしまった。

 だが、目的の場所へ着くと、そこは数年前とまったく変わった様子はなかった。


 人々はここへきて、一喜一憂しながら刹那を駆け抜けてきた。

 そう、今の自分に出来る事を最大限にして。

 それは自己満足ではあるが、自分と言う存在が自分を認める為には決して譲れないもの。

 

 私は再びこの場所で果たせなかった自分への誓いを、今まさに完遂する為に!!



「次のお客さん、ニンニク入れますか?」


「ヤサイニンニクアブラカラメマシマシで!」



 そして目の前に提供される大豚ダブル、野菜増し増し、にんにく増し増し、脂増し増し、ラーメンたれ増し増しのこの店最強のラーメンを前にする。

 麺量450g、もうこれだけでも腹いっぱいどころの問題では無い量。

 しかもチャーシューであるはずの豚肉は豚の角煮よりも分厚い、しかもそれが倍の四枚も入っている。

 

 数年前の前の若かりし頃の私は、これに挑戦して見事に敗北をした。

 そしてギルティである、「お残し」と言う大罪を背負った。

 しかし、この数年で各これ系の名店で血のにじむような修行をして400gの麺量も難なくこなせるほどにまでなった。


「いざ勝負!」


 私はそう言って、割りばしをくわえこの戦いに挑むのだった。

 

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忘れられないそこへもう一度 さいとう みさき @saitoumisaki

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