38. VSクロヴィカス2

 さて、軽口を叩いたのはいいが正直参ったな。魔族が魔力を使って肉体を強化しているのは知っているし、トラさんに教わって俺も同じような事は出来る。過去に闘った魔族も同じように強化していた。だが、デュランダルが全く通じない程の硬さは初めてだな。

 ドラゴンの体ですら簡単に切り裂くのだが…。

 まぁ、硬いのは分かった。次からはデュランダルに魔力を込めて強化してから斬るだけだ。

 魔力の残量に注意しないとな。


「どうした!避けてばかりでは何も出来んぞ!」


 クロヴィカスの攻撃を躱しつつ、背後から迫ってきたゴブリンを蹴り飛ばす。攻撃しようにもゴブリンが邪魔だ。上手く操っているな。

 俺が反撃出来るタイミングでゴブリンが突っ込んできてる。両方の対応をしながらは流石にキツイか。

 トラさんの方は俺の5倍くらいのゴブリンが向かってる。援護は期待出来ないな。

 この状況を打開する為にデュランダルに魔力を喰わす。


「させると思うか?」

「なら止めてみろ」


 俺の行動を止めようとクロヴィカスの攻撃が激しくなるが、その分ゴブリンの動きが雑だ。飛びかかってきたゴブリンをクロヴィカスの方へ蹴り飛ばし、一瞬出来た隙でデュランダルを振るう。


「『狂乱飛燕』」 


 デュランダルから放たれた燕の形をした魔力の斬撃。大きさは『飛燕』のおよそ半分の1メートル程。速さも威力も変わらない。ただ1つ通常の『飛燕』の5倍の魔力を喰わせた斬撃は、デュランダルの意思で自由自在に飛び回る。


「ちっ!」

「これで1対1だ」


 俺とクロヴィカスの周りにいるゴブリンはデュランダルの意思で縦横無尽に飛び回る『飛燕』が切り裂き、排除してくれている。

 舌打ちをしながらクロヴィカスが伸ばしてきた尻尾を剣の腹で叩き落とし、そのまま斬り掛かる。

 最初の時と同じように腕でガードをするかと思ったが、回避を選んだようだ。流石に魔力を込めたデュランダルは防げないか。


 舐めているのか知らないがクロヴィカスが魔法を使う様子はない。魔力で強化した拳と足、時たまに尻尾を伸ばして攻撃してきただけだ。どこか単調だ。何か狙っているな。

 俺の攻撃から逃げるように大きく後ろに飛んだクロヴィカスを追いかけようと1歩踏み出した時に、足元に光る赤黒い魔法陣に気付く。


 ───『ブラックボム』か。

 罠として使う設置型の魔法だ。通常の魔法は詠唱して発動すれば直ぐに使えるが、設置型の魔法は対象が魔法陣を踏むか衝撃を与えるかしないと発動しない。前世における地雷のようなものだ。俺に攻撃を仕掛けながら設置したのか。

 警戒した瞬間にこれか…。


 魔法陣を認識すると共に後ろに大きく跳ぶが、発動の方が僅かに早かった。魔法陣を中心に黒い爆炎が広がる。ドンッとデカイ音がした時には体に衝撃が走り吹き飛ばされていた。

 それでも魔力でのガードが間に合ったので、傷はそこまで深くない。少し火傷をしたくらいだ。空中で受け身を取って地面に着地し、クロヴィカスに視線向ければ俺から随分と距離を取っているがの分かる。魔法の詠唱をしているのか?不味いな。

 デュランダルの意思で動く『飛燕』が詠唱を止めようとクロヴィカスへ向かうが、尻尾によって叩き落とされて消滅する。


「ほぉらぁ!踊れ人間!」


 クロヴィカスの身長ほどの魔法陣が浮かび上がると同時に回避を選択する。魔法陣から放たれるのは5cmくらいの小さな魔力の固まりだ。一発一発は小さく威力は少ないが数が尋常じゃない。秒間50~100発くらいか? まるでガトリングガンみたいだな。俺に向かってくるゴブリンを最低限の動きで躱しながら後ろを見れば俺が通った所にいたゴブリンに無数の穴が空いて絶命している。。

 弾速が早くないのが救いだが、立ち止まるかゴブリンに捕まるかすれば俺も蜂の巣だな。

 

 ───『魔力の弾丸マジック・バレット』と呼ばれる魔族が好んで使う闇属性の魔法だ。数的不利を覆す為に魔族が生み出した魔法とされ、1体1よりも軍勢に対して使う方が効果は見込める。この魔法でどれだけの人間やエルフが殺されただろうか? どう考えても俺一人に対して使う魔法ではない。

 現に俺よりも周りのゴブリンに対する被害の方が大きい。それを気にする様子がない以上、クロヴィカスにとってゴブリンはただの駒でしかないのだろう。

 しかしまぁ、弾幕が厚くてクロヴィカスとの距離を詰めれそうにないな。このままではジリ貧だ。

 『狂乱飛燕』でクロヴィカスを襲わせるか? あの魔法は使っているうちは動けないが、先程と同じように尻尾で防御される恐れがある。魔力を多く使う『狂乱飛燕』の使用は控えるべきか。

 『飛燕』に『狂乱飛燕』、肉体の強化に魔力を使っている。俺の残りの魔力は6割くらいか?

 蓄積で貯めた3日分の魔力があるから魔力不足は気にしなくていいが…。

 

 避ける事を最優先に迫ってくるゴブリンを掻い潜りながら走っていると、クロヴィカスに向かって飛んでいく眩い光を纏った槍が見えた。『ホーリージャベリン』だな。ノエルの魔法か。

 クロヴィカスも槍の存在に気付き撃ち落とそうとしているが、効いている気配がない。真っ直ぐにクロヴィカスへと進む。忌々しそうに槍を睨むクロヴィカスの姿が映る。


 弾幕が止んだので距離を詰めようと思ったが、周りにいるゴブリンが邪魔で進めない。次から次へと襲ってくるゴブリンを斬り捨てるが、そうこうしてるうちに魔法を解除したクロヴィカスが槍を掴んで叩き落としているのが見えた。これじゃあ、状況が変わらないな。

 押されている状況を打開する為に『狂乱飛燕』を使ったが魔法一発で逆に不利になってしまった。魔族が使う魔法はこれだから嫌だ。


「神官の小娘か。鬱陶しいエルフめ」


 村の入口にいるノエルを睨んだ後に俺を見てニヤッと笑うと魔法の詠唱を始めた。ノエルを狙う気か!? 阻止しようとするとゴブリンが行く手を阻む。


「カイル、下がってなさい!」


 上空から声が聞こえ、視線を上に向ければ西の入口の防衛に向かった筈のサーシャの姿がある。魔法で飛んでいるのか。

 その姿を確認すると共に彼女の魔法に巻き込まれないように距離を取る。


「『プロミネンス』!」 


 上空に浮かんだ巨大な赤い魔法陣から直径10mを超える炎の球体が現れ、クロヴィカスへと一直線に落ちていく。まるで小さな太陽のようだ。流石に受けるのはマズいと判断したのか、詠唱をキャンセルしてクロヴィカスがその場から大きく距離を取った。追尾するように追っていく炎の球体にクロヴィカスが顔を歪めるのが見える。


「もう西の入口は大丈夫なのか?」

「大方終わったわよ。その為にあたしを向かわせたんでしょ?」

「そうだが、やけに早いな」

「開幕エクレアが聖剣を解放したし、あたしが広域魔法を連発して殆ど片付いたわよ。残りの残党処理で2人は残ってるわ」


 サーシャと話している間にプロミネンスが着弾したが恐らく当たっていないだろうな。当たる直前に魔法を使っているのが見えた。

 それにしても早いな。こっちも戦闘が始まってからそう経ってないぞ。ゴブリンが相手とはいえここまで早いとは。


「魔力は大丈夫なのか?」

「6割近く使ってるわ。早めにケリをつけないと不味いでしょ?温存しないでぶっぱなしてきたの。こっちにクロヴィカスがいるみたいだし」


 サーシャの視線の先を見れば無傷のクロヴィカスの姿がある。やっぱり当たっていなかったか。


「次から次へと鬱陶しい人間どもが!」

「あら、あたしはドワーフよ。見て分からない?紳士のおじ様」

「減らず口を叩くな小娘!」

「乙女に対して失礼するわね。ちゃんとドワーフよ、お・じ・さ・ん!」


 サーシャとクロヴィカスのやり取りを聞いてて思うことが一つある。サーシャこいつだけ空を飛んで安全な位置にいるのズルいな。風の魔法だと思うが。サーシャが俺と話してる時もクロヴィカスと話してる時も俺は襲ってくるゴブリンの対処をしながらだというのに…。

 後、空を飛ぶならスカートは止めた方がいいと思う。下着が見えてる。


「カイルの魔力はまだ大丈夫?」

「俺はまだ余裕がある」

「そう。あたしの方はさっき言ったように魔力は4割くらいしか残ってないわ。カイルのサポートはするけど、威力が大きい魔法はそんなに使えないわ」

「お酒はどうした?」


 闘いの最中にお酒を飲むのは正直褒められた行為ではないが、魔力が回復するなら飲んだ方がいいだろう。

 幸い彼女はドワーフでお酒に強い。少し飲んだくらいでは影響は出ない。


「この村に来るまでの道中で飲み干しちゃったのよねー。こっちに来る前に最後の1本飲んできたところよ」


 いや、ほんとアルコール中毒者こいつは。

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