12.ゴブリンの討伐と酒の過ち

「町から随分と離れた場所に向かうな

子供の遊び場にしては随分と離れているんじゃないか?」

「目的地はもう少し先の川だよ、トラさん。

魚釣りや、川で水遊びをしているらしい。」


 ───翌日のお昼過ぎ、俺とトラさんは拠点にしている町を出て目的地の川まで歩いていた。



 話を聞く為、被害者の少年の元には俺1人で向かった。

 加害者のトラさんを連れて行って家族を刺激するのは良くないだろうという事でトラさんには宿屋で待ってもらった。


 少年の話を聞いた所、町を出て西に真っ直ぐ進んだ先にある川でゴブリンの群れを見かけたという。

 友達と魚釣りをしていたが、怖くなって慌てて逃げてきたらしい。

 運良くゴブリンに見つからなかったので、大事にならなかったが遊び場の1つを失って困っていた。

 そこで俺たちにどうにかして欲しいと。


 拠点としている町『マンナカ』の周辺にある川は1つしかないので場所に迷うことはないだろう。

 団子岩と少年達が呼んでいる3つ重なった岩の近くで見かけたと言っていたからそこを重点的に探そう。


 探索の必要があるのでダルに同行をお願いしようとしたが、顔を合わせたら顔を真っ赤にして逃げてしまったので諦めた。

 難しい仕事ではないので、俺とトラさんの2人で向かう事にした。

 獣人であるトラさんは人よりも目と鼻が良いので、ダルの代わりに探索を任せておけば大丈夫だろう。


「あの辺だな」


 町出て30分ほど歩いた頃に目的地である川が見えてきた。

 後は目印の重なった岩を探すだけだが…。


「カイル、居たぞ」


 どうやら先にゴブリンを見つけたらしい。

 トラさんの真剣な声に、デュランダルに手を置きトラさんの視線の先時に目を向けるが俺の視力では黒い点が幾つか見えるだけだ。


「トラさん、何体いる?」

「ハイゴブリンが1体とゴブリンが10体といった所だな」

「一般的なゴブリンの群れだな。ゴブリンシャーマンはいるか?」

「いや、杖を持ったゴブリンは見当たらないな。

厄介なのはハイゴブリンだけだろう」


 ハイゴブリン1体に対してゴブリンが10体から20体というのが一般的なゴブリンの群れだ。

 ゴブリンを討伐するのに当たって厄介なのがハイゴブリンが複数いる場合だ。

 個体そのものがゴブリンより強いのもあるがそれは誤差の範囲。単純な脅威はその数だ。


 ゴブリンの1体1体の個体が弱い為、群れを作って狩りを行うのがゴブリンの生態だ。

 その司令塔となるのがハイゴブリンで、ハイゴブリンが複数いる場合はそれだけ群れが集まっているという事になる。


 俺たちが過去に行った依頼でハイゴブリンを10体ほど確認した事がある。

 その時のゴブリンの総数は150を超え200に届かんばかりの数だった。

 1体1体が弱くてもそれだけ数が多いと脅威になる。

 その時は少しづつ数を減らしてから、サーシャの魔法で一掃した。


 もう1つゴブリンを討伐するに当たって注意するのがゴブリンシャーマンの有無だ。

 いないならそれでいいが、群れの中にゴブリンシャーマンがいる場合真っ先に倒さなければ痛い反撃を受ける事がある。


 ゴブリンは『闇の精霊』の異名で知られており、ゴブリンシャーマンが使う魔法はその異名の通り『闇』属性だ。

 魔族と違って知識がない分威力は落ちるが、元々の殺戮性能だったりが高いのが闇属性だ。ゴブリンシャーマンが使ってもそれだけで驚異になる。

 今回の群れの場合は、ゴブリンシャーマンは居らずハイゴブリンは1体だけ。ごく一般的な群れだ。


「どうする?」

「一先ず俺の攻撃が届く距離まで近付こう。

最初の攻撃は俺がやる。撃ち漏らした敵をトラさんが仕留めて欲しい」

「クハハハ、あれくらいの規模なら俺一人でも十分だがな」

「無駄に時間をかけたくない。スムーズに終わらせよう。トラさんも日が暮れる前に帰りたいだろ?」

「それもそうだな」


 作戦が決まった以上、さっさと終わらせよう。

 ゴブリンに気付かれないようゆっくりその距離を縮める。その距離がおよそ100メートル程になって、群れの全容を確認出来た。


 トラさんが言っていたように数は11体。

 子供のような体型のゴブリンに混じって1体だけ大人サイズのゴブリンがいる。あれが司令塔のハイゴブリンだな。

 群れ全体が同じ方向を見ていて、こちらに気付いた様子はない。


 彼らの視線の先にあるのは川だ。

 群れが揃って同じ方向見ている。何をしている?

 あれはよく見れば釣竿か。少年達が置き忘れたものだな。

 釣竿をハイゴブリンが持って振り回しており、それゴブリン達が眺めている。


 都合がいい事に1箇所に固まっている。上手くいけばトラさんが出るまでもなく一撃で済むかも知れない。


 鞘からデュランダルを抜き、魔力を喰わせる。


「『飛燕』」


 バレないようにあくまでも小さく技名を呟くと一緒にデュランダルを一閃に振る。

 すると剣を振った軌道から2メートル程の燕のような形をした斬撃が現れ、意志を持つように一直線にゴブリンに向かって飛んでいく。


 デュランダルを手放せない理由の1つで、俺が持つ数少ない遠距離攻撃がこの飛ぶ斬撃『飛燕』だ。

 デュランダルに喰わせた魔力を剣の一撃と共に放出するという単純なものだが、その威力は俺が振るった剣撃の鋭さに合わせ上がる。

 今の一撃なら岩だろうとバターのように切り裂くだろう。


 魔法を使えない俺の代わりにデュランダルが俺の魔力を喰い、喰った魔力を操作して飛ぶ斬撃へと変えている。デュランダルでなくては出来ない技だ。


 飛んでいく飛燕にゴブリンが気付いた様子はない。これは当たるな。そう確信した時には隣にいたトラさんの姿がなかった。

 飛燕を追いかけるように音もなくトラさんがゴブリンに迫っていた。


 悲鳴を上げる間もなく、飛燕が最初のゴブリンの体を真っ二つに切り裂く。

 その後も威力が落ちる事もなく1箇所に固まったゴブリンを襲う。


「3体逃れたな。言ってもそれまでだが」


 飛燕よって8体ゴブリンが体を真っ二つに切り裂かれ絶命したのが見えた。ハイゴブリンを含む3匹だけ異変に気付いて避けたようだ。

 それでも既に遅い。


 いきなりの事で困惑するゴブリンに音もなく肉薄したトラさんの拳が襲う。遠くからでもパァンとゴブリンの頭が弾け飛ぶのが見えた。

 丸太のような腕だが、どんな力で投げれば頭が弾け飛ぶんだと疑問に思ってる間にもう一体が。

 ハイゴブリンがトラさんの姿を確認した時にはその体にトラさんの蹴りが入っており、威力が高すぎて上半身が飛んでいったのが見えた。


「トラさんに殴られたら死ぬな」

「機嫌を損ねてはいけませんよ、マスター」

「とりあえず今夜1杯付き合うか」


 ゴブリン達との戦闘は文字通り一瞬で終わった。

 この程度の相手ならそもそも俺たちが出るまでもない。

 あくまでもトラさんがした事の罪滅ぼしの為だ。一先ず合流するか。

 デュランダルを鞘にしまい、ゴブリンの生死を確認しているトラさんの元へと駆けだした。








「どうしてこうなった」


 チュンチュンという鳥の鳴き声が聞こえる。既に時刻は朝を迎えている。

 部屋のベットには俺の他にもう1人、トラさんの姿があった。


 依頼を受けた後、打ち上げとして2人で宿屋で飲んだ。俺は体質チートで、酔うことはないので酔った勢いでという事は起こりえないが代わりにトラさんが酔った。

 酔った勢いでトラさんに襲われた。

 抵抗したが筋肉ちからの差で押し切られ、俺は喰われた。

 最中になって漸く気付いたがトラさんは女性であった。


 彼、いや彼女は文字通りの肉食系女子だった。

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