第13話

 ……いや、そうでもないか?


 僕は〝ハルが帰ってきますように〟とお願いしたら、何故か猫と会話出来るようになったのだ。そしてハルは帰ってきたのだが、僕の能力とそれは直接的には関係がない。


 どうもあの様子だと放っておいても帰ってきたような気がする。


「ま、まあでもお礼参りはしたほうが……」


 いいことは間違いがないというか……


 いや、した、したぞ! 


 僕はあれからも能力を消してほしいがために、何度もお稲荷さんには足を運んでいる。


 小銭を数枚分だが、少しは賽銭箱も重くしている。その際ハルが帰ってきたお礼も何十回も心中で唱えているのだ。


「油揚げか? 油揚げが問題なのか?」


 しかし揚げが欲しいなら神様もそう言ってくれればいいのに。


「……う~ん、これ以上は僕もなんとも……。もうちょっと詳しい話がわからないとアドバイスしにくいですねえ」


 各務さんはため息をついて、小さく首を振った。


「で、ですよね」


 もういっそのこと全部喋ってしまおうか、とも思ったが寸でのところで踏み止まる。


「まあ、進展がありましたら教えてください。何か力になれるかもしれません」


「はい。今日はありがとうございました!」


 僕はレジ内の狭いスペースで深々と頭を下げた。ここまで色々分かったのだ。ありがたい。


「ただ、なんでしょうね。私見を言わせてもらえれば何かが起こっている気がしますね。何かおかしな、いつもと違うことが」


「え? 陣池にですか?」

「いえ、沢巳さわみ全体にですね」


 沢巳、は僕たちの住んでいる町の名前である。旧町名だ。今沢巳町は合併で飴子市の一部になっている。


「何かしら不穏な感じがするんですよねえ……町全体に、雰囲気っていうか」


「な、何かあったんですか?」


 急にトーンが変わったので、こっちにも何か懸念が伝染してきたような気がした。


「いえ、特には何も……。具体的に何かって訊かれると困るんですが。僕の感じですよ。感じ。ほら、最近何か違う感じがしませんか? 町の空気が」


「そう言われると……」


 どうだろう。何か変事があっただろうか? 少なくとも僕の周囲では……


「う~ん。でもあんまり関係ないような……って、現在の話じゃないんですったら!」


 各務さんは僕以上にうろたえ、やがて空笑いしながら謝ってくれた。


 それからすぐに、またお客さんがレジに来て僕は別れの挨拶もそこそこに家に帰った。

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