第15話 巫女部

 とある空き教室にて。

 夢幻鳴子は一人で机に座っていた。

 真ん中に6つほどの机が固まって置かれており、彼女はその内の一つの廊下側を向いた席に座っている。

 手には万年筆を持っており、机の上には御札と紙切れの束が置かれていた。


「誰か、新しい部員来ないかなあ?」

 鳴子は少し憂鬱そうにつぶやいた。


 この部にはかつて、中学生の鳴子に加えて高校3年生の先輩が2人いたが、彼女たちは去年卒業していってしまった。今は鳴子一人である。

 だから、早く新入部員を見つけないとこの部は廃部になってしまうのだ。しかも、去年は3人いたから部が認められていたが、今年は4人いないと部が認められないのであった。


 先程、北折と名乗る生徒会の役員が早く部員を見つけるように催促に来たのだった。

 しかし、新しい部員は一向に見つからない。


 もし、夏休み前までに誰か見つからなければ、この部は廃部となってしまうのだ。


 鳴子はそろそろ勧誘に行こうかなあと考えていると、教室のドアがガラリと開いた。


「あのー、巫女部というのはここでよろしいんでしょうか?」

 そこには、薄紅色の髪の少女がいた。



 ◆

 私はとりあえず、巫女部の部室の前まで来た。


 巫女部の部室って、ここでいいんだよね?


 私はゆっくりと目の前の扉を開けた。

「あのー、巫女部というのはここでよろしいんでしょうか?」

 すると、教室の中には長い黒髪の女生徒が机に座っているのが見えた。


 その人物を見て私は少し驚く。


「な、鳴子さん?」


 次の瞬間、その生徒は勢いよく立ち上ると、素早く私の側まで移動してきた。


「ちょうどよかった!あんた、入部希望者なのね。

 部員が集まらなくて困ってたところなのよ。さあ、座って、座って」

 彼女は、期待と興奮に満ちた声で、そう言った。


「えっ?」

 それに対し、私はかなり困惑した。

 いったい、どういうことなんだろう?


 正直、理解が追いつかなかった。


 そして、私は、彼女の言われるままに席に座ってしまった。

 鳴子さんはお茶を入れると私の前に置き、大量の和菓子を私の前に出してきた。


「さあ、遠慮なく食べてね」


 それに対し、更に私は困惑した。

 さすがにそんなにいただけないよ、、、



 そして、彼女は私が座っている正面の席に腰を下ろした。


「これからよろしくね。

 あんたはどうしてこの部活に入りたいと思ったの?」

 彼女は少し興奮したような声で私に訊ねてきた。


 うーん、入部しに来たわけじゃないんだけどなあ。

 これだけ期待したような感じだと、本当のことを言うのはかなり忍びない。

 でも、本当のことを言わないと。


「え、えっとー、実は部活に入りたいとかそういうわけじゃないんです。ただ、相談したいことがあって...」

 私は、申し訳ない気持ちになりながらも、彼女へ本当のことを言う。


 彼女は少し残念そうな感じで、謝ってきた。

「そう、残念ね。ちょっと私が勘違いしてたみたい。ごめんなさいね」

 

 すると、鳴子さんは私の顔をじっと見つめ始める。


「ところで、あんた、どこかで...?」

 そして、彼女は疑問を含んだ声で、そう呟いた。


「この前、あなたに助けてもらった者です。

 あの時は本当にありがとうございました」

 私は、彼女に助けられた者であることを告げた後、お礼を言った。


「ああ、あの時ね。

 別にお礼なんて言わなくていいわよ。巫女の仕事としてやったことだもの」

 鳴子さんは合点のいったように呟くと、あまり気にしないように言った。


 彼女は、当然のことをしたまでだと言ってるが、私は本当に感謝している。

 彼女は命の恩人だ。


「ところで、相談したいことって?」

 すると、彼女は話を本題へ戻し、私が何の相談で来たのかを訊ねてきた。


「ちょっと、クラスメイトのことで相談があって。

 先に、見ていただきたいものがあるんです」


 私はそう呟くと、鞄からスマホを取り出す。


 そして、pチューブを開くと件の動画を彼女へ見せた。



「これはかなりまずいわね...」

 動画を見終わると、彼女は深刻な表情でそう呟いた。


「彼女は助かるのでしょうか?」

 私は、心配しながらも彼女へそう訊ねる。


「まだ助かるかどうかは分からないけど、急いだ方がいいわ。

 彼女の住所とか分かる?」

 彼女は助かるかは分からないと告げた後、急いだような口調で、私にそう訊ねてきた。


 どうやら、事態はかなり深刻な状況のようだ。


 しかし、話したこともないクラスメイトの住所なんて全く分からない。


「いいえ、知りません」

 私はそう答えると、彼女は考え込んだ表情を浮かべた。


「なら、職員室に行くわよ」

 数秒の沈黙の後、鳴子さんはそう提案をした。


 そして、私たちは席を立つと一緒に職員室へと向かった。

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