第6話 帝都

 数日後、二人を乗せた馬車は街道の果てに行き着いた。


 あれが……

 帝都……


 帝都は厚い石造りの城壁に囲まれ、ところどころに塔や巨大な門が造られていた。

 門と扉は鉄製で、周囲には衛兵が何人もおり、入る者を厳重にチェックしている。

 二人が乗った馬車は、マーヤが提示した身分証明であっさりと門を通過した。


 一葉は、「この国じゃ奴隷商人は信用のある職業だってこと?」と憤りを覚えた。


 帝都に入ると、街路は石畳で舗装されており、様々な商店や屋台が立ち並び、活気にあふれている。

 建物は木造と石造のものが混在し、様々な様式のものがあり、中には何百年も前に建てられたであろう古めかしいものもあり、歴史を感じさせる。

 帝都の中心部には、宮殿や、議会堂、大聖堂などと思しき巨大な建物が乱立している。

 街を行き交う人種は様々だが、中に小さくずんぐりしたドワーフのような種族や、耳の長いエルフのような種族、さらには人型の獣や竜のような種族まで混じっていた。

 一葉はそんな明らかに人間と異なる種族を見て唖然としていた。


「亜人を見るのは初めてッスか?」


 一葉の様子に気づき、マーヤが問いかけてきた。


「なんなのアレ……人なの……」


「この世界には人類の他に11の亜人類がいるんスよ。魔人類、竜人類、獣人類、蟲人類、天人類、地人類、森人類、屍人類、妖人類、精人類。亜人類のうち三分の一は人類と友好的に共存、三分の一は相互不干渉、三分の一は敵対ってカンジッス。特に人類と魔人類はここ100年程バチバチにやりあってるッスからね。もし、魔人類と出くわしたら、逃げの一手ッスよ」


 一葉はマーヤの説明を聞き、あることが頭にひっかかった。


「亜人……」


「どうしたんスか?」


 一葉は数秒だけ躊躇ったあと、頭の中に浮かんだ疑問をたどたどしく口にした。


「最低な考え方かもしれないけど、人間に似た種族が他にたくさんいるのに、なんで同じ人間を奴隷として使ってるの?」


「あー、なるほど。亜人を奴隷として使えばいいのに、なんで人間の私が奴隷にされなきゃいけないの?ってことッスね?」


 マーヤは一葉の言葉を嫌らしく言い換え、ニヤーっと口の端を吊り上げた。


「わざわざ言い直さなくていいわよ。自分でも最低な考え方だって言ったでしょ」


「いやー、わが身が可愛いってのは生命の根幹スからね。何も恥じることはないッスよ」


 マーヤはぱたぱたと手を振って、一葉の心情を肯定する。


「まあ、理由はいくつかあるんスけど、他種族を奴隷として扱うのは種族間問題になるんスよ。友好種族はもちろんのこと、それが敵対種族であったとしても、先方にバレたらそれを理由に速攻で攻めて来るッスからね。もう一つは、亜人類は概して人間より身体能力や魔力が高いんで、奴隷として管理するのが難しいんスよ。そんなこんなで、奴隷として使うには同じ人間が一番いいんスよ」


 解説を終えたマーヤは「ね、合理的でしょ?」と言わんばかりの得意げな笑顔を浮かべた。

 そんなマーヤの存在に一葉は改めて嫌悪感を覚えた。


「最低ね……アンタも……この世界も……」


「さあ、どうスかねー……見た目が同じ同族を奴隷として扱うのと、見た目が違う他種族だから奴隷として扱っていいって考えるのと、どっちが最低なんスかねー」


 マーヤの反論は揚げ足取りの屁理屈でしかなかったが、一葉は自分の中に自己保身と他種族蔑視の意識が芽生えていたことに自己嫌悪の念を抱いていしまい、言い返すことができなかった。



 その後二人は言葉を交わすことはなく、数十分後、二人を乗せた馬車は目的の場所に辿り着いた。


「さあ、着いたッスよ!!」


 マーヤは檻の鍵を開け、一葉を檻の外へ連れ出した。


 一葉は目の前の建造物を見上げた。


「ここが……」


 一葉の前には巨大な闘技場が聳え立っていた。



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