第1章 ─浪漫珈琲②─


 泉は、何気なく店内を見回した。


 

 泉と美香の他、店にいる客は三人。



 カウンターの端に座り、一人でコーヒーを楽しんでいる中年男性。時々、真上を見上げたり、壁の方を向いたり、机に突っ伏したりしている。物書きか何かだろうか? 何か考え事をしているようだ。


 窓際のテーブル席には、若い女性。バンドのTシャツを着ている、可愛らしい女の子。小説かな? 本を読んでいるが、内容が面白いのか、肩を震わせて、笑いをこらえているようにも見える。


 もう一人、こちらも窓際の席で、ノートパソコンを開き、画面を覗き込んでいる男性。お仕事だろうか? 株の変動でも見ているのか、ずっと頬が緩んでいる。



 三人とも最近よく見かける。きっとマスターの魅力にハマったのだろう。



 珈琲の香りと、紳士なマスターが創り出す世界で、皆がそれぞれ楽しんでいるようだ。

 



 泉は、さっきから気になっていたことを、マスターに尋ねる。


「あの…… マスター。 体調悪いですか? 熱っぽいとかないですか? 顔が赤いようだけど……」


「え? いや、そうかな?」マスター。


「マスター、こっそりお酒でも飲んでるんじゃないですか?」美香が笑いながら言う。


「ハハハ、そんなことないさ。美しいレディが目の前に、二人もいるので緊張しているのかな? ハハ……」マスターが、シュッと応える。


「もう、ホント紳士だなぁ」泉はそう言いながら、また店内を見回す。




 カウンターの中年男性は、天井を見上げている。


 女の子は、本で顔を隠し肩を震わせている。


 ノートパソコンの男は、ニヤニヤしている。




 マスターは、真っ赤っ赤だ。




──すごく心配だ。

 



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