嘘と欺瞞の生存戦略

三島 蓮

プロローグ

 明け方の薄暗い部屋の中。

 最近は秋の季節で肌寒い。

 だが掛け布団の中はほんのりと温かかった。


 隣で寝ている女性の顔を見る。

 名前も知らない女性だ。

 夜の街で出会い、そのまま一晩を共にした。


 今日の女の子はなかなか可愛かった。

 茶髪のボブカットの女の子で、あどけない顔立ち。

 話を聞いたら、田舎から出てきたばかりだと言う。

 確かに少し垢抜けていない感じがした。


 もう当分、経験人数なんて数えていないが、四桁は軽く超えているだろう。

 別にイケメンでもない俺だったが、運良く話術に長けていた。

 凄く面白い話ができるわけでもないけど、女の子が喜ぶこと、女の子が言ってほしい言葉が手に取るように分かった。

 それに女性というのは案外、イケメンじゃなくても良かったりする。

 まあ確かに、イケメンの方が良いのは間違いないが、基準が顔に偏重しているかと言われると、そうじゃなかったりするのだ。


「んんっ……、あっ、おはよう……」


 隣で寝ている女の子が目を覚ました。

 自分の状況にすぐに気がつき、恥ずかしそうにはにかみながらそう言う。

 俺は優しく微笑んで、彼女の頭を撫でながら言葉を返す。


「おはよう。よく眠れた?」

「うん。おかげさまで」

「それなら良かった。この後、一人で帰れそう?」


 俺の問いに女の子は言葉を発さずに頷く。

 おそらく本当は帰りたくないのだろう。

 もっと俺と一緒に居たいと思っているに違いない。


 だが、ここで情を抱いてしまうと、ずっとズルズルと不安定な関係を持ち続けることとなる。

 身体の関係だと割り切れるような経験豊富の女性なら良いが、こういう不慣れな女性に優しくしすぎると大変な目に遭う。

 ……何度かそう言った目に遭ったからな。

 まだ解決していない女の子もいるし、事後はより慎重にならなければならないのだ。


「じゃあ帰ろうか。タクシー代は出すよ」


 俺はそう言ってベッドから抜け出て、服を着出す。

 女性はベッドの上で名残惜しそうにしていたが、渋々と抜け出してシャワールームに向かった。


 身支度を調えて、俺たちはホテルを出た。

 朝の涼しげな空気が心地良い。

 俺は道でタクシーを拾うと、運転手に一万円を手渡して、女の子を乗せた。


「じゃあ、さよなら」

「うん、またね」


 そう言って女の子と別れる。

 しかし……またね、か……。

 わざわざそう言い直したってことは、もう一度会うつもりでいるのだろうか?

 しかし連作先も交換していないし、大丈夫だろう……おそらく。

 そう思うが、それでも居場所を突き止めてくる女の子もいるから、気は抜けないな。


 そうして、俺も電車に乗って家に帰ろうとして、改札を通りホームに立つ。

 そういえば、次のバイトっていつだっけ……?

 ふとスマホを取り出して、確認しようとしたその瞬間。



 ――トン。



 俺は背中を押されていた。

 プップー! と甲高いクラクションが響き、目の前に巨大な鉄の塊が近づいてくる。

 チラリと後ろを振り返ると、そこに居たのは以前俺が関係を持った女の子だった。


 彼女は暗い表情で笑みを浮かべ、目を見開く俺に向かってこう口を動かした。



『貴方が悪いんだからね』



 そして俺は電車にハネられ、トマトみたいに潰されながら、あっけなく、自業自得で、人生の幕を閉じるのだった。

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嘘と欺瞞の生存戦略 三島 蓮 @mishima_ren

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