第28話4月15日

 吸血鬼たちを助けに過去へ飛んでからここ数日、人を殺めることについて悩んでいたのだが皆に聞いてみることにした。


「ん……。多分、私が一番……平等に見れると思うから……私が発表するね……」


 確かにスイセンなら適役だろう。普段ボーッとしているように見えて、実は色々と考えてくれている。勉強とかで行き詰まったときは、リコリスやカトレアに教えて貰うことが多い。けど、真名に誓った障害を排除することの力もあると思う。それでも試しに聞いてみたときに、何も答えられないということは一度もない。


 俺が見受けるにその高い能力で、常に皆の状態を観察している節がある。実際にそうなったことはないが、誰かが風邪を引いたなんて時に最初に指摘するのはスイセンなんじゃないかと思っている。

 そんなスイセンなら、今回のことも的確に教えてくれるだろう。



「まずはリコリス……。必要なら躊躇はしないタイプ……。罪悪感とかも感じないと思う……」


「私の敵はアルス様と皆様の敵ですので」


 リコリスは皆の中でも、真名に誓った仕えるものの力か、どこか一歩引いたところから各々へのサポートをしてくれている。そのため、実際に機会が回ってくるかは分からないが……覚えておこう。



「次はカトレア……。今までの機会で……率先して前に出てるけど……。実は一番引きずると思う……。皆が心を痛めないように考えるってことは……自分がそうということの裏返しだから……。とっても優しいからこそ……だと思う……」


「わ、妾をバカにするでない!そんなことは……ないのじゃ」


 これは図星ということだな。今まで2回あった機会。どちらも、実行するならカトレアだった。カトレアが手を汚すことにならなくてよかったと思う。リリス様もカーミラ様もちょくちょく通信しているから、そのときにこっそり感謝を伝えよう。お二人とも気にしないでいい、と言ってくれると分かりきっていてもだ。


「それで私だけど……。私はアルスや、皆……仲良くしてくれてる人達以外は……割りとどうでもいいと思っているから……。ダメージがもっとも少ない……と思う……。カトレアには悪いけど……リリス様やカーミラ様が手を出さなければ……私がやっていた……。ごめんね……?」


「なっ!?いや、結局はそうはなっておらんのじゃから。気にせんでもよい」


 周りをそういう風に思っていたというのは初めて聞いた。

 だが思い返せば、吸血鬼たちを助けに過去に飛んだとき。

 目覚めない大勢の吸血鬼を見てうちひしがれることもなく、即座にリコリスに魅了を使うように言えば話は早かったはずだ。


 しかし、実際にはガーベラが行動するのを待ち。リコリスが自分で気付くのを待っていた。

 これは、吸血鬼たちをある程度見捨ててでも俺たちの成長を優先したということだろうか?

 それとも、スイセンの力も万能ではないということなのか。


 今まで見てきたことと、今の話からすると前者な気がする。詳しく聞いたことはなかったが、この話が終わってみたらどんな力なのか聞いてみたいと思う。


 そして、密かにカトレアがやるくらいならスイセンが行動をとる予定だったことも、気付かなかった。

 それもそうだ、周りがどうでもいいとは裏を返せば身内にはとても優しいということだ。

 そんなスイセンが、カトレアが傷付くと分かっていてなにもしないわけがない。

 今までカトレアにしか注目してなかったから、全く気付かなかった。今までも意識はしていたがもっと視野を広げられるように、これからも頑張ろう。


「アスターは……。過去が過去だったから……。躊躇はあまりしないと思う……。でも罪悪感は感じるだろうから……これからもそのままで居て……。」


「あはは、そこまで理解されているっていうのもなんだか気恥ずかしいっすね」


 アスターは、俺達と一緒になる前の環境が環境だったからな。もしかしたら、そういう機会もあったのかもしれない。でも、スイセンがこれからもそのままで居て欲しいということは経験自体はないのだろう。

 これからも俺達のところで一緒に幸せになって欲しいと思う。


「ネモフィラは……。私に近い考え方をしてると思う……。必要なら実行も出来る……。でも、ふとした瞬間に……この血に汚れた手でアルスに触れていいのかって……悩むことになると思う……」


「それは……否定できんかもしれん」


 やはり、誰かが手を汚す機会というのは来ないのが一番かもしれない。今の言葉に、ネモフィラだけでなくカトレアとアスターも顔をしかめていた。


「ガーベラは……。ちょっと特殊……。弱肉強食の思想があるから……実際になってみないと……私にも分からない」


「殺す時は殺される前にやれって教わったからね!」


 これは確かに予想できないかもしれない。どこまで割り切れるかという話になりそうだ。

 その後はスイセンの力について聞いてみたところ、例え話をされた。


 スイセン曰く。例えば、虫のたくさんいる道があるとして、実はその中に毒のある虫がいる。それを毒があると認識してないと反応はしない。障害になると思っているものが何もないから。

 毒があると分かっていれば反応する。と言えば分かってくれる?とのこと。


 ただこれは極端な例で実際には何か起こる気がするみたいなことから反応することもあるらしい。これはネモフィラを行かせたときが今まででは一番強かったと語っていた。


 行かなきゃいけないと感じてたネモフィラにも聞いてみたけどよく分からないって言われちゃった。リコリスは単純に私たちがしたいことだから手助けするだったから別のものみたい、とも。

 何か私達が知らない力の作用があるんだと思う、とのことだ。


 でももう、誰かを殺める機会は来ないから心配する必要はないと思う、という言葉で締め括られたのだった。

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