第27話4月14日
今日はネモフィラに、俺の過去を話してほしいとのことだ。皆はそれぞれ席を外すらしい。もはや建前の理由さえ言わなくなったのは、味を占めてしまったのだろうか。でも皆の絆が深まるというのなら、俺も話をするのは吝かではない。
そうして、話をしたのだが。ネモフィラはとてもこちらを気遣ってくるので、座りが悪い。今も。
「その、あまり人付き合いのしてこなかった我にはこういうときどうすればよいのか分からぬが。とにかく、もう気にすることはないと思うのだ。今は我も居るし、他の皆も共に居る。だから我が君が、落ち込むのはその。皆望まないと思うのだ。だから──」
といった調子で、口下手なりに必死に励ましてくれようとしている。こうなったのが、リコリスの後から付け足すようになった今は皆が居るから幸せだと言う前だったのでとても伝えづらい。しかし、このままでは余計にネモフィラを困らせてしまうだろう。覚悟を決めて。よし。
「ネモフィラ、最後まで話を聞いてほしい」
「え、あぁ、その。聞こう」
そこでネモフィラの頭を撫でながら、安心するようにと思いを込めて。
「今は、リコリスが、カトレアが、スイセンが、アスターが、ガーベラが。何よりネモフィラが居てくれる。だから今の俺は幸せなんだ。必死に励ましてくれようとしたんだろう?ありがとう。その気持ち、ちゃんと伝わったよ」
そう伝えると、自分が先走ってしまったことに気付いたのだろう。ネモフィラは顔を真っ赤に染めてしまった。もっとその顔を見ていたかったのだが、手で覆い隠されてしまった。残念、可愛かったのに。
「すまない、今は我の顔を見ないでくれると助かる」
「大丈夫だよ。ゆっくり待つから」
「かたじけない」
そうして、しばらく経ってからネモフィラは覆っていた手を離してあの綺麗な瞳と顔を見せてくれた。俺はこの瞳が好きだ。確かに、人とは違う。でもどこか引き付けられてしまうのだ。その後はネモフィラから質問を受けた。なぜ単独行動することが禁じられたのか?と。
そこで俺は続けて、リコリスに起こったこととアスターとガーベラとの出会いを話した。その話を聞いたネモフィラは、そういうことなら、ああなるのも納得した。と答えてくれた。
ちょうどいいので、俺の方からもあの時何をしていたのか聞いてみることにした。ネモフィラは語る。
「真名に従って向かった先はこのサモンズ世界だったか?の東の国だった。ここからどれくらい離れているのかは、すまないが分からぬ。真名契約を結んだためか、真名に誓った力か分からぬが今までと出せる速度が違いすぎるのだ。そうして、たどり着いた先で幼子が呪われているから助けるのを手伝ってほしいと言われた」
呪われている子供が居たのか。これからどう関わってくるのか、もしくは会うことはないのか分からないがその子供を助けるというのが真名に示されたのだろう。
「そこで話を聞いた我は、とある霊草を出来るだけ集めてほしいと伝えられた。それの位置も真名が教えてくれているような気がしたので、その通りに行けばことごとく群生地に出た。そこから少しずつ摘みもう届けよと真名が言うので届けたところで我が君から通信具に反応があったのだ」
「それじゃあ、子供が助かったかは分からないんだな」
「微かに聞こえた声は、これで助かると言っていたように思うが実際に助かったかは分からぬ」
「そっか。なんのためだったのかは分からないけど、ネモフィラは人助けをしてきたということなんだね。あの時はごめんね。すぐに行かせてあげられればよかったんだけど、答えられなかった」
「我が君が気にすることではない。先ほど聞いた話の後であれば、そうなるのも必然というものだ」
「そう言ってくれると助かるよ。そういえば今日は、カーミラ様から魔道具が届いたんだって?いきなり朝に、一時間したら呼び戻してほしいと言われたときは何事かと思ったけど。それは何をしていたか聞いても大丈夫なの?」
「もちろん、問題ないぞ我が君。実はカーミラ様から、カメラという魔道具を譲られてな。催促したつもりはなかったのだが、きっと気に入るからと送りつけられてしまった。実際にいいものなのだが、なんと説明したものか。実際に使ってみるのがいいか。我が君よ、少しじっとしていてほしい」
「よく分からないけどそうしてほしいなら、そうするよ」
「ではいくぞ?3、2、1」
その後にカシャッという音と共に光が輝いた。目がチカチカするが、これは目眩ましをする魔道具だろうか?やがて、カメラという魔道具の下の穴からジーッという音と共に紙が出てきた。描かれているのは……俺?なぜか、俺の姿と部屋の内装が精巧に描かれた絵が出てきた。ネモフィラに説明を求めると。
「この光るのがシャッターを押すと言ってな。その瞬間のカメラに写っている景色を、目で見たような姿のまま写し取ってくれるのだ。そして写し取ったこの紙のことを写真と言うらしい。この写真を作ることを、写真を撮ると言うのだそうだ。カーミラ様に旅をするのが趣味だと言ったら、この魔道具をプレゼントされてしまった。この間の感謝の印らしい。こんなことでは足りぬ、とも仰っていたが」
「確かに、景色を写し取ってくれるなら旅には必需品と言ってもいいかもしれないね。これがあればどこかへ行ったときに、その景色がいつでも見られるようになるんだし」
「我が君が、我と一緒にいろんな所へ行ってみたいと言ってくれていただろう。実際に行けるようになるのはいつか分からぬが気分だけでも味わってもらえたらと思ってな。満足していただけるだろうか?」
「いい!いいよネモフィラ!とっても素敵だと思う!」
「我が君に喜んでもらえたならよかった。我は時間さえあればどこへでも行ける故な。我が君が、満足するような場所を写真にしたいのだ」
「ありがとう。ネモフィラ。でもどうせなら俺だけじゃなくて、皆で楽しむのも良さそうだよね」
「そうだな、それもよいかもしれぬな」
そこで皆が戻ってきたようだ。まるでタイミングを図ったかのようだが、特にそんなことが出来る娘は……。可能性があるとすればスイセンか?まぁ、悪いことでもないしいいだろう。そこからは皆でわいわいと、ネモフィラが取ってきた写真を満喫した。ネモフィラに連れていかれていたカトレアは生気のない瞳をしていたが、そんなに移動が大変だったのだろうか?
そうして、その日は写真を片手に持ちとても盛り上がりながら終わりを告げるのだった。
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