第25話4月12日②

 そうして、今度はカトレアとのデートの始まりだ。とは言ってもやりたいことがあるとのことで、遅めの昼食から始めるとのことだ。もしかしたら、リコリスに気を遣ったのかもしれない。

 リコリスがそれぞれのやりたいことを察してサポートするタイプだとしたら、カトレアは自分だったらこうかもしれないと相手の立場に立って考えて気を遣ってくれるタイプだ。


 そうしてカトレアと連れ立って入ったのは、高級そうなレストランだった。大丈夫だろうか?こんな高そうな場所の食事代なんて払ってしまったら、あっという間に学園からの支給額が空っぽになってしまうのだが。そんな考えを読み取ったのだろう。カトレアが。


「心配するでない。ここの支払いは妾が払う。そもそも召喚獣が増える度に全額渡しておるくせに、妾の半身に払わせたら罰が当たってしまうのじゃ」


「そうは言っても、それとこれとは別だろう」


「それこそ、それとこれは別じゃ。それにちゃんと妾は見ておったぞ?銀貨1枚なぞ出しおって。何を考えているのじゃ?」


「それは……皆の中で差を作りたくなんてなくてさ。それに、あの中には明らかにそれ以上の価値があるものもあるように思った。もしそういうのがほしくなった時に、そうした方がいいと思ったからやったんだよ」


「なるほどの。そういうことじゃったか。それならなおさら、ここは妾に払わせてくれ。いや、どうか払わせてほしいのじゃ」


「それなら……お言葉に甘えさせてもらうよ」


 そうして俺たちは店の中へ入った。メニューを見ても値段が書いてない。どれなら安いだろうか。そんな風に悩んでいたら、カトレアがぱぱっと決めてしまった。単独行動は皆していないはずなので、誰かとこの店に来たことがあるのだろうか?


「この店に来たのは初めてじゃ。じゃが、話しは聞いておったのじゃ。ほれあのミスリルゴーレムの契約主じゃ」


 あのミスリルゴーレムの契約主か。結局話したことはないので、名前は覚えていないがそんな話までする仲になっていたとは知らなかった。


「何度か模擬戦を挑ませてもらった仲じゃな。お互いに得るものが多いのじゃ。なにせいつも引き分けじゃからな。お互いにダメージが与えられないのじゃ。どうやったらもっと攻撃力をあげられるか考えておるのじゃ」


「そうだったんだ。攻略はできそう?」


「どうじゃろうな。色々と試してはおるんじゃが……。しばらくは無理かもしれんのう」


「やっぱりリコリスが特別なだけで、普通は強敵なんだな」


「いや、それがそうでもないのじゃ。どうやったのか見ていても分からんかったのじゃが、スイセンは勝ってしまったんじゃよ」


「へぇ、それは凄いね」


「じゃから妾も勝ちたいんじゃが。どうにもなぁ」


「まぁ、カトレアの役割は防御だから拘りすぎることもないと思うよ」


「妾の半身がそう言ってくれるなら、そうしとこうかのう。お、料理が来たのじゃ」


 なんとも豪華な料理が並べられていく。一体いくらするのか考えたくもない。


「今日のところは細かく言わんから、ゆっくり食べるとするのじゃ」


「そういえば、カトレアはこういう料理が食べたかったの?そうだったらごめんね。リコリスは俺に合わせた料理しか作らないから」


「いや、ある意味そうかもしれぬがそうじゃないのじゃ。妾の半身には、テーブルマナーというものを知ってほしくての。じゃから迷惑になりにくいように、食事時から時間をずらしたのじゃ」


 言っていることは本当だろう。しかし、同時にリコリスが多く時間を使うのに都合がよかったという理由も含まれているような気がする。カトレアの気遣いを無駄にしないためにあえて聞くことはしないが、カトレアはそういうことを考える娘だ。

 そうしてカトレアの見様見真似で食事をしながら、会話を続ける。


「昨日は大変だったよね。そういえば、初めて真名を縛ったから効果が続く時間とか知らないんだけど大丈夫だよね?」


「それならちゃんと切れておるのじゃ。これが奴隷契約ならずっと続いておったのじゃろうが、妾の半身の認識があの場での限定だとしておったのじゃろう」


「出来れば、もうあの力を使いたくはないね。」


「妾が不甲斐ないばかりに、妾の半身には迷惑をかけたのじゃ」


「いや、これは俺の問題だからカトレアは気にしないで。もっと言うなら、誰にもどうにも出来なかったよ。あれは。」


「そう言われてしまうとそうじゃのう。それこそ、時間を飛ぶ魔道具でもない限りは無理じゃろう」


「それなら、探してみる?その魔道具」


「やめておいた方がいいじゃろうの。妾たちにはそうなったという記憶がない。ということは、やらなかったということなのじゃ」


「じゃあ逆に未来から来たって言う相手が現れたら、なにが何でもそうなるようにしなければならないんだ」


「そういうことじゃのう」


「カーミラ様の話を聞いた後だと、なんだか怖いけどね」


「あの話を聞いてしまうとのう。そういうこともあって持っては居ても実際に使うことは恐ろしく少ないと聞いておるのじゃ」


「過去改編なんてするもんじゃないね」


「救われた妾としては複雑じゃが、その通りなのじゃ」


「ごめん、ちょっと無神経だったかな」


「いや、妾も過去改編で救われたなどとは聞かされておらんかったから同じ意見だったのじゃ。どうにか食べ終えられたようじゃな。さすがは妾の半身じゃ」


「それを言うなら、分かりやすいように見せてくれたカトレアの方だと思うよ」


「そうかの?実際に出来ておるのじゃからよいではないか」


「そこまで言うなら分かったよ。いつもありがとうカトレア。そんなカトレアが好きだよ」


「なっ!?わ、妾も好ましく思うておるのじゃ」


 照れながら答えてくれたのでよしとする。そうして店を出た後は、またあの露店に顔を出した。そこで商品を選んで銀貨1枚を渡す。店主も心得たもので何も言うことはない。ただ、いつも店を出すときは、ここに居るからまた顔を出しな、と去り際に言われはしたが。また利用しようと思う。

 そして、午前中にも来た広場に来た。そこで先ほど買った物をカトレアに渡す。


「実際に渡されると嬉しいものじゃのう」


 カトレアも見ていたと言っていただけあって、すぐに身に着ける。そうして、カトレアの耳にはコウモリの飾りがついたイヤリングが付いていた。


「とっても似合ってるよ」


「ありがとうなのじゃ」


 その後はベンチに座って帰る時間までゆっくりと過ごした。本当にこういう時間もいいものだ。

 ゆっくりと幸せを噛み締めながら、ゆったりと流れる時間を堪能しその日は終わったのだった。

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